東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『台風と夕暮れと』

台風の予報が出ていた日曜日、さすがに周りも早めに帰宅をしていて、僕が乗った帰りの電車もそこまで混んではなかった。風は少し強く吹いていたけど、まだ雨も降らないうちに帰宅できた。(正確に言えば、日中強い雨が一度降ったがその後、やんで)。家に帰ってからぼんやりテレビを観て、そのまま疲れて寝ていたら、強い風の音で目が覚めた。少し開いている窓から雨が入ってきていたので、慌てて閉める。大丈夫かなぁと思いつつ、その後はまたウトウトとして、寝てしまい、目が覚めると早朝だった。

 

自分の周りでは幸いなことに大きな被害はなく、雨もやんでいた。娘の学校も通常通り授業があるとのことで、さすがに不安だったので、娘と一緒に学校まで行くことに。近所の神社の境内の中だけ、驚くほど葉っぱが落ちていて、神社全体がなんだか緑色になっていた。不謹慎なことを言えばそれはそれで普段は見れない面白い風景だなぁと思った。

 

台風が残したものと言えば、地面にへばりついた葉っぱと、仕事関連でいろいろと発生した問題。電車の多くが昼過ぎまで運休したり、本数を減らしていたので、その影響を受けた仕事の対応にバタバタした。雲が晴れると絵にかいたような台風一過で、かなり蒸し暑くなる。夕方、仕事で外に出て、少し歩くだけで汗が吹き出してきた。あとからニュースを見ればこの夏一番の暑さになったのだという。一つ仕事を終えて、道を歩いていると、夕暮れの橙色で空がとてもきれいだった。ふーっと力が抜ける。久しぶりにいい夕暮れを見た気がした。喫茶店で仕事をしてから帰宅。

 

是枝裕和監督『海よりもまだ深く』を観る。関係が終わってしまった家族。未練を引きずりつつ、小説家としてもうまくいかない主人公。養育費を払いつつ、一か月に一度の息子との時間を楽しみにしている。なりたかった大人になれずに今を生きる主人公。「いつかはきっと」と想い、日々を諦めずに生きることこそが大事なんだと言いながら、嫌っていた父親と同じようなダメな人生を歩いていることにも自覚がある。一人息子が離婚した現実についても冷静に見つつ、母と、そして父との関係も受け入れながら淡々としているので、物語は劇的には展開しないが、だからこそ、じっくりと味わえる映画になっている。恋愛は、消しゴムで消してなくなるようなことではなく、油絵で塗りつぶしていくようなもの。無くならない。そこに存在している。映画の中で語られる。無くならないからこそ、人は過去を振り返るし、もしかしたらあの時に戻れるかもしれないという希望も抱く。だけど、現実は容赦なく、前に進むしかないことばかり。

 

物語の後半、台風の一夜がとても丁寧に描かれる。その一夜の幸福と、しかしそれが一時のすぐに終わってしまうものであることの切なさ。夜が終わり、快晴の空の下、元夫と、元妻と息子は、一人の男と、母と息子に別れる。終わってしまった関係がある。台風の影響で壊れてしまった傘がいくつも画面に散らばっている。もう元には戻らない。受け入れなければならない。男は、振り向かずにその場を去っていく。