東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『カモン、カモン』

この日も朝から快晴で、空を見上げると夏雲が素晴らしい。そのわりに、気温はそこまであがらず、心地の良い暑さ。ガツガツと仕事をしてから、新宿御苑へ。こういう日だから日中はあまり人はいないけれど、この日は土曜ということもあり、それなりに人はいた。繰り返すけれど、木陰に入れば結構風も通り涼しい。

僕は敷物をしいて、日なたへ。とはいっても、太陽は雲の中に入っていたので、そこまで強い日差しではない。それで、ぼーっと日焼けをしたまま、少しウトウトしていると、気が付いたら雲間から直射があたり、程よく肌が焼かれる。汗もでて気持ちが良い。夏の過ごし方としては、個人的にはクーラーの中にいるよりも何倍も快適だと思う。

それから日が暮れてから、電車で高井戸へ。車で近くを通ることは多いけれど、駅で降りたのは初めてだと思う。下高井戸シネマで上映されている映画『カモンカモン』を観たくて、初めて下高井戸シネマを訪れた。ギリギリで着たのだけど、お客さんは結構いた。

映画は本当に素晴らしかった。少年と叔父にあたる人物の数日を描いた作品で、大きな出来事もそこまでない。些細な会話や、ちょっとした子供らしい悪ふざけに叔父さんが怒るみたいな場面はあるけれど、それも日々の出来事。だけど、そういったなんでもなさが、おそらく二人にとってはかけがえのないものになる。物語の後半、もう間もなく別れの時という夜、「このことは忘れてしまうよね」という少年の台詞に、叔父が「君が忘れても僕が覚えているよ」と言う。それはその場限りの恰好をつけた言葉かもしれない。そうは言っても時が経てば、記憶は薄らいでいき、些細な出来事は忘れていくだろう。それでも、その時、そのやりとりの中で、「僕が覚えている」と言えたこと、それは二人にとって『絶対』だ。その愛おしさ。ラジオディレクターである叔父の録音機器で、少年が1人語る台詞。「人生は何が起きるかわからない、だから進む。」、そしてタイトルにもなっている「カモン、カモン」と呟く。日本語訳のテロップ「先へ、先へ」。見事な訳だと思う。

映画館を出て、すっかり日が暮れていた。なんだかとても晴れやかな気持ちで、そのまますぐに駅から帰るのも勿体ないと思えて、一駅分、歩いて帰ることに。下高井戸シネマのあるマンションの建物沿いは再開発が進んでいて、建物が取り壊されていた。地域に住んでいない身勝手さもあるが、どうか、映画館は無くならないで欲しい。京王線沿いの長閑さのある線路わきの道沿い。高架ではない味わいがある。踏切があることの煩わしさもあるだろうからなんとも言えないが、この長閑さが町の空気を作っているような気もする。明大前まで歩いて、その近くもいろいろと様変わりしていくのだろうと思いつつ。

映画の余韻に浸ってとても気持ちが良い土曜の夜。