東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

千鳥日記『面白いKくん/LEFT ALONE』

■ 寒い日が続いてしまい、ちょっと風邪を引いた。友人の芝居の手伝いで受付をしたのだけれども、劇場の構造の都合で受付が外になってしまい、ずっと外にいたせいもあるのだろう。喉が痛い。

■ 昨日、リーディングに出てくれたKくんの芝居を観に東急東横線学芸大学駅へ。東急東横線、初めて乗った。渋谷から田園調布などに行く路線で、中目黒や代官山なども通る。雰囲気のいい町を通る路線だ。東京は場所によって本当に雰囲気が違う。ちょっとしか違わないはずなのに学芸大学駅付近も渋谷とはまったく異なる。面白い。

■ Kさんはもともと声優志望だったそうで、とてもいい声をしている。リーディングの時にもそのいい声を発揮していただいた。だけど稽古以外のときは結構寡黙な人だ。クールとでもいいますか。しかしKくんは面白い。たまにとんでもない行動を取る。

■ リーディングの稽古をしていたとき、阿佐ヶ谷の稽古場にKさんは自転車でやってきた。ちょっと不可解だなと感じたのはKさんの家が高尾の付近だと聞いていたからで、電車に乗ってもかなり遠い場所のはずなのに、どこから自転車で来たのかということだ。

「家から自転車で来たんです」

Kくんはとてもいい声でさらりと言った。あまりにもさらりと言ったので、話がそのまま流れそうになった。かろうじて踏みとどまってどのくらいかかったのか聞いてみた。

「2時間ですね」

そういい声で言ったKさんの表情はむしろ微笑んでいたように思えた。しかしそう言われた僕は呆然とするしかなかったわけだ。

「いやぁ、お金がなくって」

Kくんは笑顔で続けた。お金がないって言っても、それで2時間かかる道を自転車で向かうという選択肢を選ぶとは。

がんばりすぎだ。

僕はそう思わずにはいられなかった。リーディングに巻き込んだ手前、恐縮したのでお金貸しますよと言ったが、Kくんは笑顔で丁重に断って、阿佐ヶ谷から高尾に向かって自転車を漕ぎ始めた。そんなKくんだ。相変わらずいい声だった。

■ リーディングやこの前の1月の芝居、一昨日まで手伝っていた芝居だって、かつて一緒に芝居を作ったメンバーがいて、そういう人たちとこうやって交流があるのは楽しい。一期一会とでもいいますか。演劇をやる歓びの一つだと思う。

■ 観劇後、急いで渋谷へ。ユーロスペースでレイトショー公開している井土紀州監督の「LEFT ALONE」を観に行く。1968年とはどんな時代だったのかをスガ秀美さんとその時代に深く関わる人物達との対談を中心に探るドキュメンタリー。まだまだ勉強不足の僕には理解できなかった部分が多かったものの、観ておきたい作品だった。

スターリン批判やハンガリー事件を契機に生まれた新左翼(ニューレフト)と呼ばれる人たち。その人たちが直面した60、70年安保。1968年。それはどんな時代だったのか。印象に残ったのは60年安保闘争を代表するアジテーターであった西部邁さんの語った言葉。「together and alone」。人は常に他者と共に存在しているが、一人に立ち返って物事を考えなくてはならない。そう言っていた。

■ 68年という時代を、政治的にも文化的にも一つの転換期と考える思想があり、その思想の先駆者がスガ秀美氏。僕はその著書である「革命的な、あまりに革命的な」(作品社)をまだ読んでいないが、それでもその時代に惹かれたのはこういう文章を目の当たりにしたから。

  http://seijotcp.hp.infoseek.co.jp/text/watanabe68.htm
  http://d.hatena.ne.jp/shfboo/20040915#p1

 僕はこの2つの文章に出会って、初めて表現についてきちんと考えようと思った。爆発的に高まった政治的運動が、一応の終結を迎えた時代。しかし敗北による終結は、運動に関わった人たちをそのまま思考停止に向かわせるはずもなく、その封じ込められたエネルギーはカウンターカルチャーと結びつき、80年代にサブカルチャーとして脱色化されていく。そういう流れがあるとするならば、80年代以後作られた様々な作品はよくもわるくも、またそこからあえて遠ざかろうとしているものであれ、そういった爆発的な革命を目指す「衝動」のようなものが「芸術」として現れたものであるはずだ。政治運動という手段から「芸術」という手段へ。それはつまり「思想」をどう「表現」するのかということに転換が起こったということではないのか。

■ 僕は1968年を知らない。もちろん学べば事実を知ることができるし、こういうドキュメンタリーや講演会に行くことで、その空気をすこしだけでも感じることはできるかもしれない。しかし、それはあくまでも「イマ」を考える為のヒントだ。僕は1979年生まれだ。そして25歳で今に至る。見つめるのは「イマ」だ。僕の思う「イマ」を立体化して舞台にあげてみたい、そう思う。

 井土紀州監督作品『レフト・アローン』 (映画「LEFT ALONE」公式ホームページ)
 ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン neoneo 14号 2004.6.1 (井土監督インタビュー掲載)
 http://www.eonet.ne.jp/~scarab/interview.htm (井土監督インタビュー掲載)

■ 昨日久しぶりに行ったレンタルビデオ屋でジャン=リュック・ゴダール監督の「勝手にしやがれ」と坂本龍一さんのアルバム「04」を借りる。家に帰ってから「勝手にしやがれ」を観る。流れるような映画だ。ちょっと眠かったのでそう思ったのかもしれないけれど、大胆な編集がされたその映画を観ながら、心地よい流れの中にいるようだった。坂本龍一さんのアルバムは全曲ピアノ演奏なのだけど、同じくピアノ演奏メインのアルバム「1996」を聴いた印象よりもライトな感じだった。3曲目がすごい好き。