東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

埼京生活『神話としての東京/ブラザー・ベア』

■ 仕事場へ向かうためにJRに乗っていたら東京駅の手前で停車。なんでもどこかで非常信号が鳴っているとか。足止めをくらうこと数分。やっと動き出すがおかげでものすごく電車が混む。まぁ何かしらの問題があるから止まるわけで仕方がないんだけれども、ちょっとしたトラブルでえらく混むものだ。


■ 野暮用で関西在住の友人と電話をしたのだけど、向こうはずいぶん暑いと聞いて驚いた。関東はまだちょっと肌寒く感じるときがあり、今日も体調の問題もあるけれど長袖のシャツを着て会社に出かけたくらいなので、やはり日本もところ変われば気候が変わるのだなぁとしみじみ思ったりする。六月末には大学の同期の結婚式で大阪へ行くので、暑いと思うと幾分気が引けるが、それはそれで楽しみだ。結局飛行機で行くことにした。本当は新幹線が良かったのだけれど新幹線より飛行機の方が安くすむ。往復でビジネスホテル1泊付きで23000円ちょっとだ。のんびり車窓を眺めながら新幹線の旅がしたかったが、空の旅を満喫できたらいい。他意はないけどANAだ。


■ 昨日も書いたけど中沢新一さんの『アースダイバー』(講談社)を読んでいる。東京の都市を縄文時代の精神性からみつめるという観点で描かれているが、それが本当に面白い。縄文時代の人たちが住んでいた村の形は円環状であったという。その円周上に家を建てていて円の中心はぽっかりと開いた広場にしていたそうだ。そしてそこは死んだ仲間を埋葬する墓地でもあったのだという。夜になるとその環の中心に集まり、死者たちの霊が休らっている大地の上で、生きているものたちの祭りが始まるのだという。生きているものと死んでいるものがともに歌い踊る。円状の思想。円周上の「ある」と中心の「ない」が作るドーナツ型の世界。それが縄文の昔にあった村の形。


■ 無意識ではあるものの現在の東京も「空虚な中心」を軸として存在している。そして山手線という円周が皇居を取り巻くようにあり、環七、環八がさらに環を作っている。道路や電車の線が血管のように蠢いているが心臓であるはずの中心にはその血管は一切到達していない。地図を見るとそのような見事な環状型の都市だということを改めて認識する。もちろん現在の東京と縄文時代の村の形が似ているということをただのこじつけだとつっぱねることは容易い。だけどそこを敢えて縄文時代と比較して見るとことでまた別の視界が見えてくる。本当に刺激になる。付録としてついている縄文時代の東京の地図を開くと東京が入り組んだフィヨルドのようになっていることに驚かされる。『現代の東京という都市も縄文時代の精神性が無意識に働いて作られた』という言葉も本を読み終わった後にはあながち冗談には感じない。


中沢新一さんの本を読むと神話的思考というものをとても考えさせられる。で、偶然なのだけど先日、ディズニー長編アニメーション『ブラザー・ベア』のビデオを観た。これが意外と面白かった。というのもきちんと神話的思考を踏襲して物語が作られているからだ。


■ 神話の世界では熊は生物の中でも頂点にいる存在だった。人間にとっても熊は大切な存在で狩の対象ではあったものの丁重に扱われていた。狩をするときは一対一で槍一つで熊に挑むことが熊に対する礼儀だった。そうした後、熊を仕留めたあとも儀式をして熊に感謝してから手を加える。毛皮を剥いてからどの場所も捨てずに大事に食べる。熊の皮をかぶっている生き物をそうやって狩ったあとに皮を剥ぐことでまた別の生き物として蘇らせているのだという考え方があったのだという。熊が自分の手によって死ぬことを理解して感謝を忘れずに熊と接していた。そういった精神を映画にも垣間見た。


■ 『ブラザー・ベア』で、人間の主人公であるキナイは三人兄弟の末っ子だった。ある日キナイは巨大な熊との戦いによって長男のシトォカを失ってしまう。復讐を誓うキナイはその熊を殺す。しかし熊を殺した天罰によってキナイ自身が熊に変えられてしまう。こういった熊との一対一の戦いや、生死による魂の移動といった構図はとても神話的だ。熊になったキナイは小熊と出会い、共に旅をする過程で兄弟のように親しくなっていくが実はその小熊はキナイが殺した巨大な熊の子供であったり、キナイも熊に殺されたと勘違いした次男のデナヒに熊のキナイが命を狙われたりと、熊と人間の関係を描きながら兄弟というものの関係もうまく描かれていると思う。いつものディズニー映画は分かり易い勧善懲悪の物語だけど、『ブラザー・ベア』はそういうところに収まらない物語があった。ラストはちょっとどうだろうと思うところもあるけれど、一見の価値はあった。


■ 神話はとても面白いし、神話的思考の深さは知れば知るほど驚くところがある。『シンデレラ』なんかは元をたどれば神話がベースで、その神話はディズニーアニメの『シンデレラ』とは似て非なるお話だ。この辺の話は実に面白い。そのお話を丁寧に解説してくれているのが中沢新一さんの『人類最古の哲学―カイエ・ソバージュ〈1〉』( 講談社選書メチエ)だ。これもお勧め。そう考えると『アースダイバー』は神話的思考で東京という都市を考察している本と言える気がする。中沢新一さんの本を読むととても気持ちが豊かになる気がする。