東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

埼京生活『こだわり』

■ 友人から聞いた話。

大学生の知人が就職活動の時期にさしかかっており、いろいろと就職先を探しているらしい。そこで友人がその知人にどこか就職したいところがあるのかと聞いたところ、その知人は

東急ハンズに就職したい」

と、答えたそうな。東急ハンズはいわずもがな、あの東急ハンズだ。品揃えの豊富さには僕もいろいろとお世話になっている。『東京の果て』でもヘリウム入りの風船を手に入れることが出来たのは東急ハンズのおかげだし。品揃えが豊富すぎて、何がどこにあるのか判らないとき、緑色のポロシャツに白いエプロンをしたあの店員さんがどれほど頼もしいことか。「それはこちらにありますよ」と至極丁寧に教えてもらえたときの、「プロだな」と思わせる仕事ぶりには頭の下がる思いだ。

そういった自分の経験も踏まえて、東急ハンズに就職したいというその知人の話もなんとなく理解できたが、そこでその知人は大変興味深い言葉を続けたという。

「でも、ロフトは駄目」

ロフトとはあのロフトだ。一見すると東急ハンズとロフトは同じような規模で、同じように豊富な商品を販売するお店であるが、その知人は東急ハンズには就職したいが、ロフトに就職するのは断固として嫌なのだそうだ。

その違いが僕には判らない。
判らないけど、その考えを否定するつもりはない。

■ ここに見えてくるのは、その人独自の「こだわり」だ。

この「こだわり」というやつは面白い。人によってそれぞれ独自の「こだわり」があるものでそれらを知るとたまに無性に面白くてたまらないときがある。


■ 例えば僕の知り合いに

『コーヒーは絶対にブラックで飲む』

と、決めている人がいる。理由を聞けばコーヒーの味を一番美味しく味わうには何も加えないのがいいからと答えてくれる。おそらくそういう風に、上に書いたロフトに就職したくない知人も理由を聞けばそれなりに納得できる理由を言ってくれるのだろう。だけどこの際、理由なんかどうだっていい。人々が誰に言われたでもないのに独自に守り抜く「こだわり」を見ることそれ自体が面白いのだ。


■ きっともっと他にも度肝を抜く「こだわり」を持っている人がいるに違いない。

 『電車内では、どんなに空いていても座らない』
 
 座らない。誰もいない車両でも彼はつり革をつかんで電車に揺られる。

 『コンビ二はローソンしか行かない』

 コンビニに入ろうと思って辺りを見渡したらセブンイレブンファミリーマートしかなかった。そういう場合にとった彼の行動は、じゃあ今回はコンビニには行くのはよそう、だ。それでこそ「こだわり」だ。

 『紀伊国屋書店は東口にある新宿本店しかいかない』

 新宿本店に希望の本の在庫がなかった。店員に聞いたところ高島屋タイムズスクエアの中にある紀伊国屋新宿南店にはあるといわれた。彼は答えた。「じゃあ、結構です」。こだわりだ。

 『火曜日はカレー』

 彼女の家に遊びに行ったら、彼女が腕によりをかけた豪華な食事を作って待っていてくれた。「今日は、美味しい料理を食べてほしくて、がんばったの。とっておきのフレンチだよ」と彼女は笑顔で言った。彼は何も答えずに家を飛び出た。そう、カレーを食べるために。なぜなら火曜日だったから。「こだわり」は時に愛する人も傷つける。

 『山手線は内回りしか使わない』

 外回りを使えば新宿〜池袋間わずか8分のところ、彼は内周りでおよそ53分を費やす。しかしやっぱりそれでこその「こだわり」なのだ。


■ 理由なんかなんだっていい。とにかく「こだわって」さえすれば、それで十分。彼らの「こだわり」を垣間見るだけで、僕はなんともいえない悦びを感じられるからそれでいい。おそらくまだまだ想像を絶するような「こだわり」を持った人たちがきっと世の中にはたくさんいるはず。もっといろいろ見てみたい、素敵な「こだわり」に。