東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

埼京生活『雨が降る』

■ 日中は晴天で久しぶりに顔を出した太陽を無駄にしてはなるまいと思いつつ、窓を全開にし、玄関まで開け放った。布団を干し、洗濯物を干し、靴も干し、傘も干す。台所や風呂場など思いつくままに出来る限り掃除をした。全開にした窓から風が流れ込んでくる。部屋の中も心地いい。大の字になって寝る。


■ 昼間の天気予報では、午後からは発達した雨雲が関東を覆い強い雨が降ると言っていた。本当かよと思いながら空を見るが青い空はどこまでも青い。土曜の昼間のテレビは情報番組が多い。こういう類の番組は積極的に見るわけではないけど、なんとなくテレビをつけっぱなしにして音だけ聞いている。テレビで紹介されていた銀座のカレー屋は、行ったことはないけどどこかで見た気がしたと思ったらかげわたりの家常さんのブログでも紹介していたカレー屋だった。その面白いメニューの名づけ方とか、雰囲気のある店の外観に興味を持っていつか行こうと思っていたのに、日記の書かれた日付をみてずいぶん時間が経っていることに気付く。やろうとすることはなかなか実行できないものだなと思う。


■ 掃除をして汗をかいたので風呂に入る。本を読みながら40分ほどゆっくり湯船につかる。以前は、長湯が嫌いだったけど今はこうやって本を読みながらゆっくりと風呂に入るのが好きだ。そうすると体中から汗が吹き出してくる。じわーっと汗をかく。体内に溜まった毒素のようなものも一緒に流れ出ているような感じがしてくる。そういえば家常さんと今度サウナに行こうと話していたのを、こうやって書きながら思い出した。


■ 風呂から上がると風が幾分強くなっていた。遠くの方に灰色した雲が見えた。あれが天気予報で言っていた雨雲らしい。こっちの空はまだ晴れている。遠くとはいっても目に見える街とこっちで空の風景がまったく違うのはなんだか不思議な感じがする。


■ 夜勤に行くために自転車を漕ぎ出すと風が強くて思うように前に進めない。じめっとして風が生暖かい。背中から汗が噴き出してきてTシャツを湿らす。空を見るとはっきりと目で見える速さで灰色の雲が動いている。青い空がどんどん消えていく。さらに灰色よりもっとずっと濃い鼠色した雲が覆いかぶさるように近寄ってくる。


■ 風が雲を運び、木々を揺らす。どこかざわついた感じがして、なんだか胸が高鳴ってくる。台風が来る前もこんな感じになる。その力が通り過ぎた後のことなど考えない。ただ目の前に向かってきている巨大な力に胸が高鳴る。


■ 乗り換えのためにホームで電車を待っていた。いつの間にか空はどす黒い鼠色で覆われている。ホームは蛍光灯のおかげで明るいのだと気付く。雨は突然に降り出した。それはもう突然としか言いようのない降り方で、降りだした瞬間から地面にたたきつけるような強い雨だった。日中に太陽の熱気を溜め込んだ地面の熱が一気に冷まされる。そのとき、地面から沸きあがる匂いは雨が熱を奪うときに生じるそれで真夏の夕立を連想させる


■ 一粒一粒がしっかりでかくて地面に勢いよくぶつかっていく雨粒の中に、砂の粒子のような雨も混ざっていて、それらが風に乗ってホームの中にまで吹き付けてくる。霧吹きで浴びせられたような感じになる。雨が屋根や地面に激しく打ち付けて音を立てる。構内にアナウンスが流れた。「突風により電車が速度を緩めて走行しております。到着までもうしばらくお待ちください」。なぜか興奮した。もっと風吹けと思った。雨も激しく降れと思った。人の作り出したものは大きな力の前では時に無力だ。そして僕も無力だ。ままならない時がある。だけど、ままならないことが必要なときもあると思う。


■ 5分ほど遅れて電車は到着した。電車が駅に止まるたびに乗り込んでくる人たちの中に髪や服が雨で濡れている人たちがチラホラいた。傘を持たずに出てきた人たちなのだろう。日中、あれほど晴れていたのだし無理もないと思う。傘を持っていたかどうかなど用意がいいか悪いかくらいでさして問題ではない。傘は雨をしのげても雨が降るのを止めることが出来るわけではない。巨大な力は揺るがない。


■ 目的の駅に辿り着いたときにはすでに雨は止んでいた。風はまだ吹いている。さっきまでの生暖かい風ではなく、ひんやりとしている。空を見上げると灰色した雲がものすごい速さで動いていた。その雲の合間から日が射しこんでくる。熱と湿気を風が持っていってくれた後の空は澄んでいて光がまぶしい。雨上がりの世界もまた美しい。