東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『八月の終わりの週末』

ドゴラ

■ 先週は水曜日から金曜まで睡眠時間をガリガリと削るほど慌しく、金曜に仕事が終わってから職場の方に車で家に送ってもらったときにはもう2時を過ぎていて、爆睡。土曜に目が覚めたらすでに13時をまわっていた。でも、おかげで疲れはずいぶんとれた。


■ それから恵比寿の東京都写真美術館『パトリス・ルコントのドゴラ』を観る。フランスの音楽家が作った『DOGORA』という曲とカンボジアで撮影した映像だけの作品。役者も台詞もなく、そこには音楽とカメラで撮影したときに一緒に録音されたカンボジアの音が流れている。パトリス・ルコントが見つめたカンボジアがそこにはあった。それは観光地としてのカンボジアではなくて、そこに暮らす人の、たぶん、なんでもない日常で、でも、だからこそそこに生きる人の姿からカンボジアという街の持つエネルギーのようなものが感じられるような気がする。いったいどれくらいの時間、カメラをまわしたのか。そしてどれくらカンボジアを歩いたのか。ヴェム・ベンダースの『東京画』もそうだけど、こういう風にそこに暮らす人々を捉えた映像を見ると、人によって街は作られているのだなと改めて気付かされる。


■ 今日は久しぶりに家族とゆっくり過ごす。僕が就職したことを報告して一番安心していたのは父だった。僕の新しくできた名刺を何度も見ていた。


■ 昼過ぎから兄と出かけた。映画でも観るかという話になったので、車で近場のシネコンに。今夏、話題の海賊ものの映画を見る。ジョニーデップは好きな役者さんだけど、どうもこの海賊の役とチョコレート工場の時の役作りは好きじゃない。奇抜な役作りが嫌いってことではないんだけど。『エド・ウッド』は好きだし。なんだろ、好みなんだろうな。僕がジョニーデップの魅力を感じるのは『ギルバートクレイプ』とか『デッドマン』みたいな作品。


■ 映画を観終わって、携帯の電源を入れたら親から電話が入っていた。なんだろうと思って掛け直すと夕食を外に食べに行こうとのこと。久しぶりに家族四人で外食をすることに。近所にある『叙々苑』に行く。名前だけはよく耳にするこの焼肉屋のチェーン店が家の近所にあったとはまったく知らなかった。


■ 父に「就職祝いだからロースを食いなさい」としきりに言われる。なぜロースなのか。それから父は「これで、安心して仕事を辞められる」と言った。父はまだ働いているけど、それほど仕事に未練があるわけではなく、早く辞めたいとこぼしていた。ただ、その割には結構家にいるときも仕事に関する作業をやっていて、まだ辞めるつもりはないのだろうと勝手に思っているのだけど。ただ、父がそう言った後に母がこう付け加えた。「お父さん、緑内障だからもうゆっくりしたいから」。僕は父が緑内障にかかっていることを今日初めて聞いた。症状としては視界が狭まり、ぼやけるのだという。なんだかすごくタイムリーだ。どうやら僕の目の悪いは父親譲りなのだろう。


■ そんな話を聞いて、以前働いていた仕事を辞めた時、親戚に言われた言葉を思い出した。「偉くなんなくたっていいけど、とにかく親には心配をかけちゃだめだよ」。こんなことは人様に言うことではないので細かくは書かないけど、僕は以前に働いていた職場を辞めるときいろんなところに迷惑をかけた。もうほんとに。とくに心配をかけたのは当然、家族だった。「お前が仕事を辞めたって聞いて、お母さん泣いたんだぞ」と兄に言われたのはそれからしばらく経ってからだった。僕の知らないところで母に、そして父に、兄にずいぶんと迷惑をかけていたのだなと実感した。あの時の僕は本当に駄目なやつだったと思う。


■ それから派遣社員とはいえ、ずいぶんと安定したところで働くことになって、それなりに親に心配をかけることは減っただろうと思って暮らしていたけど、たまにチクチクと「早くきちんと就職しないと」と言われ続けていた。それはそれで判ってるつもりでいたけど、僕は自分の好きなことを勝手にやって暮らしてきた。今回、新たに仕事を始めたのだって単純に興味があったからだし、特に親のためにというつもりではなかったのだけど、父や母がこうやって安心したと言葉にしてくれるのを聞いて、それはそれでなんだか少しは親孝行が出来たのかなと思った。父も母も年をとっている。相変わらず元気で過ごしてくれているのは本当にうれしいけど、いろいろと身体にガタが来ているところもある。僕はほんとに好き勝手に生きていて、親になんもしてあげてない。心配もずいぶんかけて生きてる。なんとかそうじゃないように生きたいとも思うけど、なかなかそうまっとうに生きれないもんで、これはきっと性分なんだろうなと思う。ただ、まぁなんとかギリギリのところで迷惑をかけずにやっていこうと思う。そう、思う。


■ すっかり涼しくなった。もう八月も終わる。