東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『2本の映画』

早起きして渋谷へ。ユーロスペースで『妻の貌』、それからシアターイメージフォーラムで『花と兵隊』というドキュメンタリー映画を観る。


『妻の貌』は、広島在住の映像作家の方が、被爆したことで甲状腺がんを患い、その後も原爆症に苦しむ奥さんを半世紀にわたってカメラで記録し続けた膨大な記録。『花と兵隊』は太平洋戦争後、終戦を向かえても日本に帰らずビルマやタイに留まった元日本兵の方の記録だ。


『妻の貌』において、原爆の後遺症で苦しむ奥さんに自身の母親の介護をまかせる映像作家本人が、妻に申し訳ないと言葉にするものの、それでも頭痛や甲状腺を除去したことからくる倦怠感に耐えながら看病を続ける奥さんの姿にカメラを廻し続けるその姿に、熱意以上の執念のようなものを感じた。今なお、闘病を続ける奥さんにとって戦争は決して過去のものではない。妻にとっての夫、息子たちにとっての父親、孫たちにとっての祖父、といった立場の前に、いかなる時もカメラをまわし映像作家であり続けた川本氏の執念が、家族の風景を捉えた映像の中から零れ落ちてくる。


『花と兵隊』において、日本に戻らない理由をうまく言葉に出来ず、というか敢えて言葉にしないある元兵士の方の姿や、自分の戦争体験をカメラを向ける監督に語り「わかるか?」と問う元兵士の方の姿を見ると、日本人であるというアイデンティティの前に、この方たちには戦争を経験したというアイデンティティこそが、その人の生き方を決定付けているのではないかと思われる。
映画の冒頭はある元日本兵の方の葬儀のシーンから始まるが、そこに出てくるその方の伴侶の方の表情がどこか笑っているように見えた。気のせいかと思ったのだが、その後の映像を見るにそれが気のせいではないことがうなづけてくる。陽気で明るいその奥さんと、家族の人たちとのやり取りがなんともいえない。映画のラスト、サクラと名付けられた孫を抱えてハンモックに揺られる奥さんの姿が忘れられない。


渋谷から副都心線で帰宅。先日、M君の芝居を観たときに家常さんと帰ったルート。副都心線はそれほど混雑もなく気持ちよく帰れる。雑司ヶ谷駅からの帰路ものんびりしてて良い。夕方に夕立あり。