東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『夏日の週末、覚書』

金曜。仕事で一日中動き回り、久しぶりにこれでもかというほど汗をかいた。最近、肉体労働をしていなかったので忘れていたけれど、身体を動かして汗をかくのは気持ち良い。体力回復のために走ろうかと思っていたのを、やはり実行すべきかと思ったり。


土曜。前日の仕事の後片付けで午前中はつぶれるも、仕事を負えたのが九段だったので神保町にでかける。35℃ちかくあろうかという気温で、当然暑いのだけど、外にでていると耐えられないほどでもない。あれはやはり情報として『35℃』と聞いてしまうことと、クーラー下に身体が慣れてしまうせいもあろうかと思う。
神保町は、なぜか『ワンピース』とコラボイベントを商店街各地でやっており、人は賑わっていた。なぜ神保町で『ワンピース』なのかは不明。明らかに目的が二極化されているような客層。数店、書店に入り書物を物色。とあるお店の店員さん同士で「ワンピースのお客さんは入って来ないねぇ」とポツリ。小栗康平さんの『映画を見る眼』というエッセイ集を購入。

その店でとてつもなく、素敵な音楽が流れており、本を購入した際に「なんの曲ですか?」と尋ねたところ、今日は来てない店員がお店のItuneに入れた曲で、タイトルが判らないと言われてしまった。ショック。本当に良い曲だった。またどこかで出会えればと思うけれど。


それから岩波ホールで『パリ20区、僕たちのクラス』を観る。小栗康平さんの『映画を見る眼』に書かれていた画角の話題。
『ヨリの画で、人物をアップでとらえる場合、人物の詳細な情報を得られるものの、人物の動き自体はヒキの画よりも早く見える。』
例えるならば、走る電車の車窓から風景を見ると、近くのものほど早く移動し、遠くものはゆっくり移動しているように見える、それは、あくまで眼の錯覚ではあるのだけれど、映像ではそうなってしまう。
この映画が、基本的に教師と生徒の対話から成り、その対話の大半がそれぞれのヨリの画のカットバックで構成されているのは、おそらく意識的にそこに流れるスピード感をますためのもののように思えた。2時間あまりの映画の中で、あるクラスの1年間が進行するが、この速度が尋常ではない。いくつかの問題が起こり、その都度、衝突を重ねる教師と生徒たちだけど、次の瞬間には突如時間が飛び、それまでの問題がまるでなかったかのようになっている時もある。もちろん、『なかった』わけではなく、それは各人の中に記憶として残るのだろうけれど、一度意識の下の方に沈み込む。
悪い意味ではなく、教師が、生徒に対してほぼ無力であることが描かれる。というか、生徒一人一人は、自分の価値観を自分で取捨選択する。教師を受け入れるときもあれば、否定もする。それは、教師主導ではなく、進行する。
映画は冒頭から一度も音楽がかからない。エンドロールまで無音であるのは初めての体験。映画のラスト、教師と生徒がサッカーをして遊んでいる場面の、歓声、ざわめきが、誰もいない教室を捉えるショットでも流れる場面があり、そこが唯一音楽のように響く。


満足して家に帰ろうと池袋までやってきたところで、仕事の電話。明らかに僕の確認ミスが招いた事態があり、泣く泣く会社へ行き、それから恵比寿へ行く。本当は、鬼子母神でやっていた夏祭りに行きたかったが行けなくなった。せめて恵比寿に行くなればと、ここ最近ではもっとも美味しいカレーを出す店、吉柳に寄る。あさりのスープカレーを食べ、納得して帰宅。


日曜。M君から教えてもらった、開高健さんの生誕80周年を記念した展示を観に、横浜の神奈川近代文学館に行く。先日、読んだベトナム戦争のルポタージュ『ベトナム戦記』の取材中のサイゴンからの国際電話の肉声は、まさに銃弾飛び交う最前線から生き延びた翌日のものであり、矢継ぎ早にしゃべる開高さんの興奮がひしひしと伝わる。戦争の最前線を知る為にベトナムへ自ら赴く剛胆さ。そこで感じたことを家族にエアメールで伝えようとするのだけど、あえて手紙で試験問題の形式で「戦争とはなにかを答えよ」と問いかけたり、さらにその問題の横に「胸の大きさを測る方法をかけ」という問題も書いたりと、どこかユーモアがある人柄も感じられる。
悠々として急げ、とは氏のエッセイのタイトルであり、そういう言葉からも氏の人柄を感じる。
釣り好きの開高さんを紹介する展示の中にあった釣りに関する中国のことわざ。良かったのでメモ。

「一時間幸せになりたいなら酒を飲みなさい。3日幸せになりたいなら結婚しなさい。一生幸せになりたいなら釣りをしなさい」

というわけで開高さんの闇三部作である『輝ける闇』と『夏の闇』を購入。

帰宅し、エッセイの影響もあり、小栗康平監督の『伽倻子のために』をDVDで観る。ラスト近く、夜の町を、壊れた水道管を調査する為に徘徊する男と、主人公2人のやりとりは、個人的にはとても好きなシーン。