東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『母はその日、住民票をとった』

昨夜、おさむしから連絡があり、仕事後に会うことに。店で夕食を食べつつ色々話す。いろいろ話しているうちに、ふと、かつてとても母に迷惑をかけた話しを思い出す。


それは直接僕が聞いたわけではなく、嫁氏が母から聞いた話。大学を卒業してすぐに就いた仕事を、僕は10ヶ月で辞めた。辞めたというか逃げ出した。今にしてみれば、なんて無責任な態度だろうと思うけれど、その時の僕はそんなことを気にすることができない状態だった。携帯に連絡がくることを恐れた僕は、翌日すぐに携帯を解約し、その当時から付き合っていた今の嫁氏の家に行き、事の顛末を告げた。その時、まだ実家には連絡をいれていない。僕はそのまま逃げ出す様に東京を出て3週間ほど放浪する。その旅で僕を救ってくれたのは、友人たちであり、親戚の人たちであり、親であった。その旅は僕にとって本当に忘れられないものである。僕が実家に連絡をいれたのは、連絡をいれることができたのは、旅を始めて1週間後で、その間の、息子が失踪した状態の親がどういう心境だったかは、計り知ることはできない。
僕が会社を逃げ出したことは、すぐに職場から実家に連絡が入ったという。母はそれを聞いて動揺し、途方にくれ、泣いたということは父から、その後聞かされた。本当に申し訳ないことをしてしまったと、当時の僕は思った。
先日、孫を見に来た母が、どういう経緯かはまったく判らないけれど、嫁氏に話しをしたのは、僕が失踪したと知った直後の話。母は、僕の携帯に連絡しても電話が繋がらないことを知ると、すぐに市役所に行ったのだという。そして住民票をとって僕の名前を確認したらしい。僕の名前をそこで確認し、「生きている」とほっとしたという。当然それは間違った見解だ。鬼籍になるには、死亡届が必要で、それが家族を経由せず、いきなり市役所に届くということはないだろう。
たが、母には息子を捜す術が何もなかった。だから市役所に行き、住民票をとるという行為をするしかなかった。その行為から、母がどれほど混乱し戸惑ったのかが知れるようで、その話しを嫁氏から聞かされたとき、僕は心底、とてつもないことを母にさせてしまったと思った。それは、父から、母は心配で泣いたのだと聞かされた時の比ではない。その話を聞いたとき、どうにも言葉にできない感情が自分の中に起こったのだけど、それは、自分の行為が、僕以外の人に狂的な行為をとらせてしまったことへの恐怖のようなもの。

まだまだ僕はガキでダメなところもあるが、二度と母にそのような戸惑いをさせることだけはさせたくないと思う。


やけに風が冷たくなって来た日。