東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『気がつけば8月。蒼く高い空』

気がつけば8月に入っていた。梅雨みたいな天気で蒸し暑いけれどすっきりしない日々。


バタバタしていたような、ぼんやりしていたような。そんな中で、今の仕事の中で自分の担う責任を考える出来事が2つ続いてあった。仕事だけど、仕事を越えたところで考えるべきこと。僕が出来る事はどうしたって1人の力でしかなく、なかなか思う通りにはいかない。


いくつかいろいろなことがあった。大半は愉しいことだ。娘を寝かすとき、一緒に横になっているとそのまま寝てしまい日記を書くにいたらない。


以下、覚え書きのようなもの。


9月以降に公開される映画を3本試写で観る。仕事で映画が観れるっていうことは本当に有り難い。どれもいわゆるメジャーな作品で全国公開されるだろう作品。ラブストーリー、実話を基にした作品、コメディとジャンル様々。それぞれに思うことはある。ただ、素直に良く出来てるなぁと思う。特に実話を基にした作品は丁寧な作りで、好みはあるだろうけれど、とても真摯な作品だった。その作品の顔合わせ、台本読みの場に参加する事ができたのだけど、監督が「みなさんの声を聞かせてほしい」と言い、本読みの間、出演者の語る言葉をじっと聞いていた事を思い出す。主人公の方が、詩を読む場面があるのだけど、その場面の読みの時に、監督は目を閉じて聞いていた。僕自身、その声の心地よさに、それを目の前で聞けたことの贅沢さを噛み締めたりした。


8月1日(木)。お仕事をご一緒させていただいたことがある写真家荒木勇人さんの個展『TOKYO』が銀座のギャラリーでやっており、それを観に行った。人物を撮ることをメインの仕事として取り組まれている方で、てっきり人物写真がメインの個展かと思ったら、東京の風景写真がテーマの展示でびっくりした。どれも色彩が鮮やかで、例えるとクリストファードイルの画のようなとでもいうか。実際、ギャラリーで使用されている音楽は、ウォンカーウァイの「2046」のサントラだった。その音楽の使い方といい、展示全体にこだわりを感じる。荒木さんは、僕を見つけてくれてとても固い握手をしてくれた。改めて話を聞くと、自分がやりたいことをこだわって形にしたという。以前、荒木さんとお仕事をご一緒させていただいたのは、昨年の夏で、一緒に新潟や仙台に行った。その時、僕はちょうど脚本の執筆中で、仕事を終えて、夜はホテルで脚本を書くという状況で、そのことを荒木さんにも少しばかり話していた。完成したドラマを見てくれた荒木さんが、メールをくれてとても良かったと言ってくれた事が本当にうれしかった。「お互い、こだわっていきましょうね」と笑顔で送り出してもらえて、なんだかとても元気をもらった。そういえば、そのギャラリーの管理をされている方を紹介してもらったのだけど、その方の親戚があるアニメ映像作家だと伺いびっくりした。それは、まぁ、別の話。


8月2日(金)。代休。とてもお世話になっているTさんに会いに新丸子へ行く。滅多に行かない場所。東急線沿線は本当に縁がない。多摩川という駅で待ち合わせをしたのだけど、そこで東急線に路線が多くあることを知る。久しぶりにあったTさんはとても元気そうだった。近くの公園を散歩し、多摩川沿いもフラフラとする。それからTさんのご自宅へ。久しぶりにTさんの旦那さんの霊前でお線香をあげさせてもらう。飼い猫けだまを看取ってもらってからもう何年になるのだろう。本当に親しくさせてもらっている。熱海に別荘をお持ちで、いつか一緒に行こうねと旦那さんが言ってくれていた。もう、一緒に行く事は実現できないのだけど、来週あたり、Tさんと一緒に行こうと話が盛り上がった。Tさんはうれしそうに、準備をしなくちゃと言ってくれる。楽しみだ。帰りの電車では、娘がすっかり遊び疲れて眠ってしまった。


8月3日(土)。公休。のんびりしようと思いつつ、板橋で花火大会があり夕方から出かける。同日、荒川の岸を挟んで板橋花火大会と、戸田橋花火大会というものがあり、てっきり同じ花火大会かと思ったら違うものだった。板橋花火大会の方が混雑するとネットで知り、戸田橋花火大会へ行く。駅に降りた時から、戸田周辺もやけに混んでいて始まる前から気がめいったけれど、土手まで行き、場所がうまい具合に確保出来たので良かった。花火が上がり、愉しく観る。娘も最初は夢中で観ていたが、後半は飽きたようであっちへいったりこっちへ行ったりと遊び回っていた。で、花火とは関係なく、僕らの隣に陣取っていた20代後半の女性2人組が、暇を持て余したのか、携帯で男を呼びつけ、3名の男がしばらくしてから現れたのだが、どういった経緯でか、しばらくすると女性2人が「ちょっと買い出しに・・・」と言って出かけると、そのまま戻ってこなかった。男3名はぼんやりと花火も観ずにタバコを吸い、ダラダラと話をしていた。


8月4日(日)。しばらく連絡が来なくて諦めかけていたとある件。ふいに連絡が入り、少しばかり進展。どうも釈然としないこともあるけれど、すこし前進したので、あとはうまく行くことを願うばかり。で、日曜は仕事。


8月5日(月)。映像演技のレッスン。岩井秀人さんが主催の『ハイバイ』が岩松了さんの『月光のつつしみ』を上演すると知り、その素晴らしい組み合わせに興奮し、不意に思いついて、レッスンに岩松了さんの戯曲を取り上げようと家の中を探しまわる。「テレビデイズ」という戯曲があったはずだが、ない。諦めて、松田正隆さんの『夏の砂の上』の戯曲のとあるシーンを読むことにした。主人公の家に居候することになった10代の娘が、バイト先の先輩を部屋に連れ込む場面。自分のペースで先輩をやきもきさせる娘が2度「2階の私の部屋へ行こう」と言うが、実際は動かずにかつて中学の頃の思いで話を始めるという場面。なぜ誘惑するような言葉を言いつつ娘は動かないのか。そして中学の頃の話を語り終えた後に、2階に上がらず、1階の居間の隣の部屋で、2人は事を始めるのだが、その始めるきっかけがどこにあるのか。さらりと読めるようで、いろいろな感情が流れる難しい場面。みんなで何度も読んでみる。そして動いてみる。ト書きは忠実に。すると読んで動くことで気付くことがある。戯れで招いた先輩に、さして恋愛の感情があるわけではないが、過去を語るうちに、どこか胸のうちにくすぶる感情が生まれる。娘は自分の言葉に欲情し、その言葉を聞いた先輩は、当初の思惑とは別でありながら、彼女に吸い込まれるように隣の部屋へ引き寄せられる。その空気感を出すには、この2人の間に生じる温度を発生させねばならないのだけど、やはりそれは非常に難しい。何度も芝居を観て、自分でも手探りながら少しずつ演出をしてみる。というのも、これが稽古ではなく、授業だから。本人たちに気付かせるための授業。いやー、しかし芝居を観るのは愉しく、そして、とても疲れる。


夕方、少し買い物に外にでたら、やけに蒼く、高い空でぼんやりと眺めた。