東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

埼京生活『driverを読む男』

■ どんよりと重たい雨雲がずっと空にあった一日。洗濯物を外に干していたのだけど湿気が多いのかまったく乾かない。桜の花は雨のせいでほとんど散っていた。アスファルトに貼りついている桜の花びらをみるとなんとも寂しい気分になる。


■ 髪を切った。ボサボサだったのがさっぱりした。髪を切ってもらうというのは気持ちがいいものだなと思う。何よりもシャンプーがいい。マッサージをするみたいに丁寧に洗ってもらうのはすごく気持ちいい。シャンプーされている時は『髪結いの亭主』になりたいなと思ったりする。


■ それから図書館へ。『群像』5月号に掲載されている前田司郎さんの短編を読む。タイトルは『ウンコに代わる次世代排泄物ファモナ』。大胆なタイトル。だけどすごく面白かった。最初の一文からやられる。

『ウンコをファナモに代えて以来、タクヤはますますオシャレになった。』

図書館だからゲラゲラと笑うことも出来ず口元をひくひくさせながら辛うじて耐える。原稿用紙30枚分、ページ数だと11ページ。短編だからこそ気楽に楽しめる作品なんじゃないか。


■ で、これを読んでいる僕の隣に3〜40代の男性が座った。鼻までしっかりとガードしている花粉対策と思われるマスク、黄土色したくたびれたトレーナーに青いジャージのズボン。手には黒の手袋(化学繊維)をしていた。服装でまず目立ってる。その男、雑誌が置いてある棚からなにやらたくさん抱えてきた。横目でチラッとみるとそれは『driver』という車情報誌だった。10冊以上抱えていたけど、すべて『driver』。バックナンバーを1年分くらいまとめて持ってきた模様。


■ この男、ページをめくるのが尋常じゃないほど早い。めくるめくる。読み飛ばすにもほどがある。しかも黒手袋はしたまま。たまにどこかのページでめくる手がピタッと止まる。ものすごく気になる。だけど迂闊に直視できない。かろうじて視線のはじっこに見えたかぎりでは『愛車物語』というタイトルの読者投稿のページとおぼしき白黒ページを読んでいるようだった。一体このコーナーの何がこの男の興味を引いたのか。こっちが11ページの短編を読んでいる間に男はほぼ1年分の『driver』を一気に読破していた。読み終わってさっそうと立ち上がった男は『driver』をすべて棚に戻したかと思いきや、一冊だけ借りて出て行った。選び抜いた『driver』には果たして何が書いてあったのか。こっちも雑誌やビデオをいくつか借りる。


■ 観たDVD。

  山下敦弘 『リアリズムの宿

  つげ義春さんの紀行文を読んだら観たくなった。原作(『リアリズムの宿』『会津の釣り宿』)は東北の八森海岸や会津の野尻川が舞台だったけど、映画の舞台は鳥取。原作に忠実なシーンもあるけどオリジナルの部分が多い。鳥取というか日本海沿いの寒空がなんだか身に沁みてくる印象。いい意味で。雪が積もった砂丘とか日が射す海岸の画を見てると旅に行きたくなる。


■ 特典として副音声で山下監督と脚本の向井さんによる解説がある。「このシーン、俺好きなんだよ」とか解説というより感想に近いことをしゃべっているのが面白かった。さりげない撮影秘話とかもあって本編を見るのとは違う楽しさがある。映画の終盤に主人公たちが歩いているところに下校中の女子校生の列が入ってくるシーンがある。雨が降っており傘の花がいっぱいさいてすごく印象的なシーンなんだけど、お二方の解説によるとあのシーンはもともと傘をさす予定ではなかったとのこと。予定外に雨が降ってしまい、でも撮影スケジュールの都合もあり、急遽傘をさして撮影をしたとか。偶然が生み出したシーンっていうのはあるもんだ。お二方は『奇蹟』という言葉を口にしていたけど、きっと映画の撮影ってそういう奇蹟がたくさん起きていい作品が生まれるのではないのか。くるりの音楽も良かった。同時期に関わっていた『ジョゼと虎と魚たち』の楽曲とはまたずいぶん雰囲気も違う。『ジョゼ〜』と関連しているといえば『ジョゼ〜』で妻夫木聡が着ていた緑色のコートと『リアリズム〜』で長塚圭史が着ていた緑色のコートは同じメーカーのものらしい、と山下監督が解説で言っていた。まぁだからなんだってわけでもないのですが。