東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

千鳥日記『恒例映画の日』

■ というわけで夜勤だ。今月は火曜の夜。で、今日は2月1日。世間は大雪や寒波で凄いことになっているみたいだ。

■ 今日から4月の公演に向けての稽古が始まった。2月は準備期間だ。本番に向けての準備。役者同士の身体の自己紹介といろいろな試みをする日々。とは言うものの、僕はこの通り夜勤で、今日の稽古は不参加。初日だというのに申し訳ないことだ。

■ そういえば稽古始は、月の頭が多い。確か、リーディングの時も月の頭だったし、1月の芝居の稽古に参加しようとしたのも12月の頭ではなかったか。区切りがいいから、と言えばそれまでだし、1日というのはそういう日なんだろう。

■ そういえば昨日、今年の6月にめでたく結婚する同級生のIから電話があった。もう結婚式の準備で忙しいらしい。なんでも今月の中旬にいろいろな用事で東京に遊びに来るとのことだが、その頃は僕がとてもバタバタしていて会えそうもない。残念だ。電話でいろいろ話しを聞いていると面白かったのは、世間ではジューンブライドと騒ぐものの、意外と6月の結婚式は人気がないらしい。暑くなる頃だし、その時期は梅雨で雨が多いから敬遠されて式場は簡単に押さえられたそうだ。なるほどな。そう考えてみると憶測だけど、ジューンブライドなんていうのもブライダル業界が話題つくりのために作ったものなのかとも思えてくる。

■ で、1日はもう一つ重要な日だ。毎月恒例映画の日だ。素敵な日だ。というわけで映画を観た。夜勤にも関わらず、早起きをして新宿へ。テアトル新宿でやっている市川準監督の『トニー滝谷』を見る。主演がイッセー尾形さんということもあり、前から気になっていた作品だ。映像が綺麗だった。シーンのほとんどが高台につくったセットでの撮影で、家の中のシーンでも、大きな窓が開いているように背景が見えるといった具合になっている。これが面白い。外が晴れていると、背景が明るいので前面にいる役者は陰が多くなる。逆に外が暗いと役者がはっきりと見える。そうやって映る映像は現実ではあまりありそうもないもので、なんだか非現実の世界のように思われる。

■ さらに面白いのは台詞だ。この映画は、村上春樹の同名短編が原作になっており、監督の意思なのかその小説で使われている文章をそのまま役者が声に出すというシーンが多く見られる。つまり本来台詞にはなりえない文章の言葉を発するのだ。そうすることでまた現実からワンクッション置かれる。また俳優の西島秀俊さんがナレーションをやっており、このナレーションがいたるところに入ってくる。まさに全体を通して映像付きの小説を見ているような気分になる。カメラワークは基本的に横スクロールが多用されており、それがずいぶん目に付く。映画を観終わった後に本屋で映画雑誌を立ち読みして、市川準さんのインタビューを見ると、カメラの横スクロールは本を読むときに右から左へページをめくったりする運動を映像で表現したかったというようなことを言っている文章があり、なるほどと納得した。いろいろと実験的な演出のある作品で興味深い。俳優のイッセー尾形さん、宮沢りえさん、西島秀俊さん、みんな素敵だ。そして音楽は坂本龍一さん。この音楽がまたいい。しかし全体を通すとどうもひっかかる感じはなんなんだろう。ちょっと言葉が多かったような気がする。好みとしてもっと静かなシーンがあってもよかったような。でも面白かった。

■ で、観終わった後、すかさず有楽町へ移動。今度は日比谷スカラ座でやっている青山真治監督の『レイクサイドマーダーケース』を観る。今月の1000円デーは攻めで行くのだ。一見すると火曜サスペンス劇場のようにも見える映画だったが、完全にそこから別の場所に存在する作品になっているのは、この映画がサスペンスや謎解き、安易な人情ものではないからだろう。もちろん、ある程度物語に決着はつけてあるものの、それだけでは拭いきれない歪みや澱んだものが残る。目に見えるものとして、映像で示されたまま答えが提示されない謎がいくつもあり、またそれ以外にきちんと見えない映像の行間から滲み出てくるものが多くあるように思われる。

■ それにしてもなんて駄目な大人たちの映画なのだろう。駄目な人たちが集まって駄目なほうに物語が収束している。ラストが一見、平和的解決にも見えるだけに性質が悪い駄目さだ。しかし、その平和的に見えてしまうということ自体、すでにその不条理な世界にはまりこんでいる証拠なのだろうか。その駄目な大人たちを見事に演じている俳優陣は秀逸。特に柄本明さんはすごい。途中、ボソッと語るその口調に思わず笑ってしまった。あんなたたずまいをされてしまってはなぁ、たまらない。

■ そんなこんなで面白い映画を観た。まだまだいっぱい観たい映画はあるけれども、今月はなんだかやけに忙しいことになっている。それはそれで悪くないことなのかもしれないけれども、インプットは大事だ。インプットすることはアウトプットにつながる。まぁ単純に面白いからみるんだけれども。