東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

千鳥日記『存在感』

■ 昨日は小春日和だったのに、今日は生憎の雨だった。週間天気予報によると、関東地方は今週、曇りや雨の1週間になりそうだ。寒さは和らいだけれども、すっきりとした春になるのは4月を待たなくてはならなそうだ。

■ 26日(土)。会社で懇意にしてもらっている上司の方が芝居を観にいかないかと誘ってくれていたので、ちゃっかり呼ばれることにした。仕事ではないのに午前中から天王洲アイルへ行く。アートソフィアという劇場でやっているうつみ宮土理さん主演のコメディだ。正直、話は単純明快な人情喜劇で、主演であるうつみさんを前面に押し出しただけの作品であった。うつみさんが歌う場面が何かと強引に入ってきたり、着替えがえらく多い。なぜか同じ曲がオープニングと中盤とラストに3回歌われたが、どうやらうつみさんの持ち歌だそうだ。

■ それでも製作が東宝だっただけに舞台は大掛かりだったし、これでもかというほど照明も使っていて、そういう規模でいったら僕がよく観ている小劇場の芝居とは比べ物にならない。まぁ、料金もそういう小劇場の芝居の3倍近い値段だったが。そういうものがタダで観られるというのは有難いものだ。

■ うつみさんはテレビに出ているときと同じように元気で舞台上を走り回っていた。60歳を越えているとは思えない若さだったが、何よりも共演していた淡路恵子さんの芝居に目を奪われた。とてつもない存在感だった。台詞の数は全然うつみさんより少ないし、淡々とした言い回しなのに、目が引き付けられる。言葉でうまく言い表せないけれども、それこそ淡路さんの持つ佇まいだけで芝居に緩急がつき、淡路さんから目が離せなくなる。あの雰囲気や佇まいは年齢を重ねることで生まれるものなのかもしれないけれど、日ごろ、僕と年齢が近い役者の芝居しか観ていないと、ああいう歳が離れた方の芝居を観る機会がないので、ちょっと度肝を抜かれた。いくら若くて元気がある俳優でも、あの佇まいはなかなかだせないのではないだろうか。ああいうのが熟練されたとでもいうような俳優、舞台俳優としての「存在感」なのだろうか。

■ それにしても芝居は昼の12時からだったのだけれども、700人以上入る劇場がほぼ満員になっているっていうのはすごかった。天王洲アイルなんて行きにくいところによくこれほどの人が集まるもんだ。ご年配の方が多かったけれども、芝居を観る人々というのは東京にはまだまだいるのだ。といってもこの劇場に来ていた人々は下北沢などでやっている芝居にはきっと興味がないんだろうし、逆に僕たちもこういった芝居や新宿コマ劇場などでやるいろんな芸能人の方の特別公演にはいかないのだろうし、なんといいますかそういった住み分けのようなことが、こうもきっちりされているのだなということを、改めて実感させられた。

■ それを観終わった後は自分の出る芝居の稽古に合流。こっちは地道にやる。まだきちんとみんな揃ってやれてない部分の稽古をする。予定では4月6日に通してやってみようという話だが、まだ一度もやったことがない部分もあるので、そこを重点的にやる。台本は決まっていても、そこに出演する役者がうまく集まらなかったりして稽古は順調には進まない。遅々としている。

■ 僕は自分が書いた台本以外にも、演出だけはやるというのもいくつか受け持っており、それが少々多い。作りこみたい部分はいくらでもあるんだけど、どうも役者と台本と稽古の兼ね合いがうまくいかない。まぁ仕方がない。役者にはどんどん台詞を入れてきてもらうしかない。僕自身は出番が少ないので台詞は楽勝。

■ と、思いきやちょっとがんばらねばならない箇所がでてきた。まだその台本をやるかどうかは確定してないんだけれども、その台本をやるとすると僕はかなり重要で大変なポジションをやることになり、しかも僕の出来次第で「面白いか面白くないか」がはっきりしてしまうような台本だ。もちろんそれに参加する他の役者のYくんのがんばりも必要なんだけど。僕が役者として出ないで演出だけに専念してその台本を見れるのならば、まだ作りこめる自信があるんだけれども、人手とかの都合上、僕は役者として出ながら、演出的なこともしていくといった具合になりそうで、非常に不安だ。まぁ一緒に作るYくんとがんばっていきたいと思う。

■ 稽古場からの帰りにふらっと立ち寄った古本屋さんでユリイカ青土社)の「松尾スズキ特集」が安く売っていたので、すかさず購入。これが出版されていた当時、本屋で立ち読みして済ませてしまったがもう一度読みたいと思っていた。「毒のある笑い」とかいろいろ言われているけれども、そういうのは松尾スズキの作品の一端であって、もっと本質的なところにこそ松尾スズキの作家性が現れていると思える。同書に掲載されている松尾スズキのほぼ全作品の劇評を見るとそういうのが垣間見えるけれども、何より松尾スズキ自身が野田秀樹やケラリーノサンドロヴィッチといった劇作家の人たちと対談している文章を読んでいると、松尾スズキがいかに「今、自分が感じている空気感」を物語として紡ごうとしているかということが少しだけでも分かる気がする。TVBrosやSPA!に連載されている松尾スズキのゆるいエッセイも大好きだけど、こういった切り口で松尾スズキを読むのも面白い。

■ 昨日の稽古で役者のMさんが体調を崩し、途中で帰った。暖かくなってくるとはいえ、季節の変わり目はやはり体調を崩しやすい。僕も体が強いほうではないのできっちり体調管理をしなくてはならない。本番にダウンするのは最悪だけど、稽古に来れなくなるのも非常にまずい。気がつけば本番までもう20日もないわけだ。