東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『上手後方からの風景/イロイロ』

いくつかの舞台を観る機会がある。舞台上で何かしら劇的なことが起こるとき、そのことを受け入れられるかどうかは、自分がどれだけその空間を受け入れられるかどうかだなぁとつくづく思う。周りをみればすんなりと受け入れて、その作品に心を動かされてる人もいるわけで、それは人それぞれだ、としか言いようがない。僕自身の意識なのだなぁと思うのだけど、なんというか、うーん。「これを見せたい」が強すぎると、いろいろ飲み込めなくなってしまう。それは自分の作ろうとするものにも言えるから自戒すべきことだけど。

 

映画でも舞台でも、何か作品を観るとき、右側(舞台用語では上手側)の後方の席で観ることが多い。最初は無意識だったけど、今は席を選べるときはなんとなく意識的にそっち側に座ってしまう。舞台上やスクリーンをできるだけ俯瞰で観たいということもあるのだけど、右側である理由はわからない。つくづく左脳タイプなのかなと思ったりもするけど、どうも右側の方が落ち着くから不思議。そんなことを書いたのは、ここ最近、下手側で観る機会が増えて、どこかソワソワしてしまうことがあったから。

 

台風が過ぎ去ってから、なんとなく雲が多く、雨が降ってジメジメとする日が続く。蒸し暑いけどそこまで気温は上がらない。昨日(23日)、雲が多かったけど夕方、外に出たら晴れ間が見えて、夕方の少しばかり緩い光線の陽射しの中で平べったい雲がひろがっていて、あー、なんだか夏が終わりかけているなぁと思った。昨年に比べたら梅雨が粘り強くて7月いっぱいは雨と低温だった気がしていたけど、8月に入ってから急に暑くなってようやく夏になったなぁと思ったら、20日ばかりでなんとなく、その終わりを感じるような空模様。

 

昨日の夜、娘と一緒に布団で横になっていた。娘がいくつか僕の持っている漫画を読んでいることなんかを話す。それから、いつのまにか眠ってしまった娘の横で寺尾紗穂さんのエッセイを読んでたら、僕も寝てしまった。エアコンをつけなくても暑くなく、ぐっすり眠ることができる。もうそんな季節になってきた。

 

朝、仕事があって車ででかける。首都高が混んでた。ラジオのニュースで、今日は湿度が高く不快な1日になると言われて気分がげんなりした。運転を終えて、昼過ぎまで事務所で仕事をしてから、新宿御苑で昼食食べたりぼんやりする。木陰でうつらうつらしていつのまにか寝てしまったけど、風が吹いて気持ち良く、暑さも全然気にならなかった。夕方になってぼんやり空を眺めていると、改めて夏が終わりに近づいてるのだなぁと感じた。

 

夜。恵比寿ガーデンプレイスで、再び、ピクニックシネマを見る。『イロイロ ぬくもりの記憶』。邦題はいまいちなような気がする。劇中で出てくるVHSビデオやたまごっちなど、時代設定は現代ではなくやや過去。インドネシア(他国)からお金のためにお手伝いさんがやってくる。そのようなお手伝いさんを雇うことが当たり前の文化的な背景など、舞台であるシンガポールについて知ることができるとより深く観れるのかもしれないけれど、特にそういった時代背景や社会的ななにかがテーマではなく、ひたすらにとある家族の、それぞれの生き方を映画は見つめていく。失業した父親、出産を控えつつも働き続け、お手伝いさんに母親の立場を奪われるのではないかと不安に陥る母親、クラスでいじめられているわけではないが、なぜか反抗的な行動をとり、問題視されている息子。そこに現れるインドネシアからやってきたお手伝いさんの女性。年齢が25歳というが、失礼を承知でいうと少し年上に見える。自身の宗教的な慣習も充分に行えない他国での仕事。そのうえ、子供のわがままさ、たるや。さらに父も母もそれぞれ自己都合で動いていく。で、失業するは新興宗教に騙されるは、学校は辞められそうになるわと、良いことは起きず、金を払うことができないため、最終的にはお手伝いさんを強制帰国させるしかないなかでも、少しずつなんとか見直していこうとしそうな、家族の再生を漂わせる終わり。音楽は二箇所のみ挿入されるが、いずれもラジオウォークマンから漏れ聞こえてくる設定。二か所と言っても中間のお手伝いさんと子供のシーンは、本当に雑踏の中の後ろ姿(とはいえ、このシーンも良かった)で音声はわずか、という場面と、ラストの出産を迎える病院で待っている父子のくだり。そこがエンディングにつながっている。それにしても飼っている鳥を、ちゃんと食べるシーンなど文化的なところなのだろうか、その躊躇いの無さが良い。劇的な場面を劇的にさせずに淡々と見せる。不意に、本当に唐突にでてくる飛び降り自殺の場面は、その不意さが画面にも表れて、そこのお手伝いさんの表情と背景の光が良かった。野外映画の面白さんはなんとなくゆるゆるとくつろぎながら観れるところだと思う。風が心地よかった。

 

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