東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

考え続ける

■ 今年の11月の暖かさはずいぶん珍しいことらしい。確かに昨日も暖かかった。もちろん長袖は着ているが、暑がりな僕は上着を着ると少し汗ばんでしまうほどだ。夏もやけに暑かったし、まぁ変な気候だ。これで真冬になったらいきなり寒くなったら嫌だな。

■ ここ数日、いろいろと考える。そのきっかけは香田証生さんの殺害されている映像がネットで流れているという話を聞いてから。僕はその映像を見ていない。どうやら見ようと思えば誰でも見られるらしいが、僕は見ていない。人の死を目の当たりにすることが怖いからだ。見た人の話や文章を読むにつけ、そのあまりの生々しさに言葉もでない人が続出しているらしいが、そういった残虐さの怖さだけではなく、もっとなんか大きな、全体的な『怖さ』を見てしまいそうで見る気になれない。

■ そうかといって目を背けるから、もうこの問題は終了というわけではない。以前も書いたけれども、やはりこれは最悪の結果だ。でも香田さんにだって責任がある結果だ。誰も責めれない。映像を見てないからそんなこと言えるんだと言われたら、確かにそうかもしれない。だけどもし、映像を見たとしてもこの意見を変える気はない。だからって全て香田さんの責任にして終わるといった話でもない。人質をこういった形で殺害することも絶対に駄目だし、その映像を配信するなんて許されない。もちろん、それも巨大な権力をもつ国の一方的な力に抗するための意思表明の現われなのだろうけど、やはり許されない。で、テロリストという言葉で全てを覆い隠して、力で丸め込もうとする巨大な国も駄目だし、その国のいいなりで突き通すこの国もどうかしていると思う。憎悪だけが積み重なっていく。

■ そしてそういったことをテレビや新聞で読むだけの自分という無力。さまざまな出来事はニュースを一時だけ賑わせて、やがて賞味期限が過ぎた食べ物みたいに捨てられるように忘れられていく。台風23号の、中越地震の現状をニュースで見て一時の感傷に浸って過ごす自分。ファルージャの市街地に圧倒的な力で侵攻する巨大な国の報道や、自衛隊の派遣期間の延長を決めた小泉首相の談話とスポーツや芸能人のくだらないスキャンダルが平行して並べられたヤフーのトップページのニュース項目を、まるで現実感を持てずに情報としてだけ頭に入れているために見続ける自分。

■ 偉そうに平和を考えるなんていって行った展覧会に、リーディングに、後ろめたさすら感じてしまう自分がいる。あらゆる媒体から発信される情報を、映画でも見るかのような軽さで見ては、自分のずっと後ろの方に落としていき、忘れていく。そういった現実がまったく存在しないことになっている作品を書き続けている自分の軽さ。無力であり、無関係である自分に力なく絶望に近い心持になる。

■ そんなときに、二つの文章を読みました。一つは成城トランスカレッジというホームページの中に書かれた文章。もう一つは劇作家の宮沢章夫さんの書いた文章。前者は香田証生さんの事件から、報道、ブログ、2ちゃんねるにいたる一連の意見の流れ、そしてこの事件からその先へ向かう為のことが書かれています。後者はアメリカのファルージャ侵攻から、それを受けて作家である宮沢さんの進む道について。

■ 無関係である自分が、個からこの事件に、そしてあらゆる世界の出来事について考えるために必要なこと。そしてそういったことに直面する時代に生きる作家の生きかた。考え続ける決意。この2つの文章は今の自分にとても重要なものになりました。

堅苦しいことばかり考えたいわけではなくて、そういう作品を書きたいわけではなくて、かといって自分は関係なかったからと背を向けてのうのうと生きたいわけではなくて、無関係で無力ではあってもただ考え続けたい。それはもう自分の為でしかない。同情ではなく、感傷ではなく、きちんとあらゆる出来事に立ち向かいたい。

■ せこせこと働きながら、お金を貰って、酒を飲んで、映画をみて、くだらないバラエティに笑い、毎週発行されるマンガを、雑誌をみて、休みの日にはぐうたらして、お気に入りのサイトをみて、面白いことに笑って、なんもなく生活している。たまに芝居をやっては、なんかやった気になって、親にはいろいろ言われても煮えきらずにいつもの毎日に埋没して生きている。それでも生きれる。死なないもんだ。そこそこ困らずに何不自由なく生きている。仕事も大事。遊びも大事。くだらないことも大事だ。きれい事を言えるほど偉そうなことなどしてない。だけど、それだけじゃなくて、本当にもう少しだけ、ちょっとでいいから何かを考える。無関係でもいい。自分が考える。考え続ける。絶望的にどうしよもないこの場所で、ひたすら考え続ける。そこから始める。終わりなき日常を生きる。

■ その2つの文章のアドレスは以下の通りです。よろしければお読みください。
成城トランスカレッジ 2004年11月9日の文章
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20041109
PAPERS 不在日記2004年11月9日の日記
http://www.u-ench.com/fuzai/index.html