東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『電車の旅、余目の風景』

長閑な線路

■ 週末は旅行というか私用で東北の方に行っていた。それで18日(日)の15時頃、僕はJR余目駅にいた。羽越本線陸羽西線が接続する駅で秋田、山形、新潟方面を網羅できる駅なのだけど、だから栄えているかといったらそういうわけではなく、駅はとても静かだった。


■ 乗り換えの都合で1時間ほど電車を待つことになったので、駅から出て少し周りを歩くことにした。ロータリーには人がおらずタクシーも見当たらない。乗っていた電車から一緒に降りた学生(ちなみに電車を下りたのは、数えた限り僕を含めて4人)が自転車置き場に歩いていくのが見えた。そこには結構な数の自転車が置いてあったので、電車を利用している人もそこそこいるのかと想像するが、駅前は食堂が二軒あるだけであとは何もない。自転車置き場の向こうに月極駐車場があり、車も数台止まっている。駐車場の看板には一月2000円と書かれてあった。


■ 駅から歩いて一本目の通りを横に曲がると店が数軒立っていたけど、どれもシャッターが下りていた。日曜だから休みだったのかそれとも店自体がすでに潰れているのかは判らない。その通りもやはり静かで、どこからか選挙演説の声が聞こえてくるが、姿は見えず。中年男性と思しき声の持ち主がさかんに何かを訴えていた。


■ その通りから路地に入り、家が立ち並んでいる道をしばらく歩くと田んぼにぶつかった。水田。ずっと向こうには山が連なっている。遠くの方に国道が走っていて、そこは車が盛んに通っている。久しぶりに緑色が多い風景を見る。田んぼの脇を流れている川のせせらぎの音が気持ちよく響いてくる。


■ 電車があまり来ない線路沿いを歩きながら駅の近くに戻ってくると、今はもう使われていない工場のようなものがあり、かつては何かに使われていたのだろうけど、今はその当時の面影すらなく、壊されることもされないで、ただ朽ちていくだけのためにそこにあるようだった。屋根が瓦で出来ていて、ところどころ瓦が欠けている。ぼんやりとその工場をデジカメに収めていたら、前からご年配の女性が歩いてきた。背骨がかなり曲がっていて、歩く速度はとてもゆっくり。僕を一瞥してから通り過ぎていった。その方も駅のほうに向かって歩いていたけど電車に乗るのだろうか。僕はその方とは反対方向に向かって工場の周りをぐるっと一周するように歩いていたら、また工場の反対側でその女性と対面した。どうやらその方はこの付近を散歩をしているようだ。ゆっくりとした速度でまた僕の横を通り過ぎてどこかに去っていった。


■ それから駅に戻ってホームで電車を待つことにした。ホームには僕以外誰もいない。駅舎には駅員の方が2人。1人は掃除をしている。時刻表を見ると電車は大体1時間に1本くらいしか来ない。誰もいないホームをうろついてみる。とんびが鳴いているのが聞こえて、空を見てみたけど姿は見えなかった。


■ 掃除をしていた駅員の方がホームにもほうきとゴミ袋を持ってやってきた。50代くらいの人だった。ずっとこの駅で働いているのだろうか。この時間帯の掃除はその人にとって日課のようなものなのだろうか。そんなことを考えながらその人をなんとはなしに見ていた。すると、その駅員が突然、ほうきをホームの屋根の内側の方に向かって振り上げた。さらにその近くの柱をガンガン叩き始めた。鉄の柱が音を立てて辺りの静けさを裂く。その駅員はしきりに屋根の内側の方を気にしている。そこに何があるのか僕の立ち位置からは見えない。やがてほうきを屋根に向かって放り投げた。それと同時に屋根の内側から黒い物体が飛び出してきた。それは鳩だった。場所を追われた鳩はどこかへ飛んでいってしまった。駅員はまた何事もなかったかのようにほうきでホームを掃きだした。また静かになった。


■ やがて案内放送もないまま、待っていた電車がホームに滑り込んできた。この駅から乗り込んだのは僕1人。あっという間に余目駅を後にする。羽越本線を走るその快速電車は緑色の風景の中を突き進み、あっという間に日本海に出た。日本海は広かった。水平線の近くに帯状の雲がずーっとかかっていて、それがなんだか山のようで、日本海の向こうの方に陸地があるようにみえた。日本海はとても穏やかで波はほとんどなかった。それから電車はずっと夕方の日本海沿岸を走り続けて、僕はずっと海をながめてぼんやりとしていた。


■ 今回の旅は久しぶりにずっと電車に乗っていた。たまに電車に向かって手を振ってくる子供を見た。彼らにとって目の前を猛スピードで走り去っていく巨大な乗り物はどういう風に見えているのだろう。久しぶりに電車で旅をしたけど、すごく楽しかった。車で走るのとはまた違う楽しさがある。