東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『待ってくれる人がいる』

■29日、仕事が終わってから新宿で大学の頃につきあっていた先輩にあった。7〜8年くらい前にいろいろあってわかれたあとは、たまたま互いの共通の友人と会う時に顔を合わせるくらいで、一言二言会話を交わすことはあっても、がっつりサシでということはなかった。

向こうから連絡をくれた。それで会うことになった。そうでもなかったら僕から連絡することはなかったと思う。7〜8年前、わかれた後に僕が相手に対して傷つける様なことををしてしまったので。

新宿のケンタッキーで待ってるから早く来いと言われて、それでフラフラと行き、客席を見渡して、誰が先輩なのかと思案し、ipodを聞いている後ろ姿がそれっぽい人を見つけて声をかけるとギロっとにらまれてから「きたか」と言われた。


■それから新宿2丁目の適当に見つけたタイ料理屋に行く。「辛い物を頼めよ」と言われたので、そうですね、辛いので行きますかと辛い物を頼むと、本当に辛い物が次々と現れて速攻で根をあげて「辛いっす」と僕が言うと、先輩はそうでもない風でバクバクと食べていた。その人はこのところ過食症気味なのだという。

僕の知らない間に、先輩にはいろいろあったらしく、本人曰く「ここ数年は地獄のような日々だった」らしいが、それは僕には判らない。これまでも、いろいろあって数回程、病院に入院したらしいのだけど、この11月からもう一度入院するらしい。今回、会ったのも、本人曰く「入院祝いになんかをおごれ」という理由だった。

カレーと白飯が食べたかったのでグリーンカレーを頼んだ。それはそれほど辛くなかった。


■あんたはきちっと社会に適応してる、というようなことを僕に言い、自分はそういう風にできない、もっとまっとうに働きたいというようなことを言う。社会に馴染んでるというような言われ方が、なにやら無性に腹が立ってしまい、まっとうに生きるってなんすか、と食ってかかってしまった。

なぜかこの人と対するといつもムキになってしまう。それは学生の頃から変わらない。

とはいえ、むこうが言っていることは大体、するどく的を得ている。
僕の反論は、自分勝手な場合が多い。

自分は勉強ができないということに劣等感があるのだという。だけど学力ではない部分の『頭の良さはあると思う』ともいう。同じ大学を卒業している身としては、勉強ができないとふさぎ込まれると自分の立場もアレだけど、僕はそこまで負い目を感じたこともないし、かといって自信を持ったことも無い。

ひとからしねというしんごうをはっせられてそれがきこえる

カレーを白飯と混ぜながらその人は言う。夜は必ず多量の薬を服用する、そうしないと眠れないのだという。言葉としてはそれを理解出来るけど、もっと深いところでそれを受け止めきれてない。

つきあっていた頃から感じていたが、他者からの言葉にすごく敏感な人だ。人の言葉の受け止め方が僕なんかとは全然違うものなのだろう。

あんたはいろいろとひどい男だよ、と言われる。以前も言われた。えらく時間が経って、それでも面と向かって改めて言われるわけだから、これはおそらくその通りなのだろう。

■辛いものをいろいろ食ってから店をでた。思ったよりも高い値段を請求されたので、その人は不服そうだったが「まぁ、あんたが払うんだし」と言っていた。それから、その人がよく行くという、ゲイの方がやっているバーへ連れて行かれた。バーにさえ、ほとんど行かないアレなのに、いきなりゲイの方の店か、とおののいたものの、店の方々はとてもいい人だった。「ケツのバージンを捧げたら」と言われたが、さすがにそれは断った。

歌でも唱うか、とその人に言われ、僕はサニーディサービスの「さよなら!街の恋人たち」を唱い、その人はGO!GO!7188の「浮舟」を唄った。音楽に対して知識のないままに、個人的な見解だけでいうと、その人の声は高音だけど、遠くまで響いてはいかない。力強さを感じない。その声をぶつけていく。半径数m圏内の人に精一杯ぶつけていく。まさにその人の声だと思う。自分には歌しかない。ロックしかないという。締めつけられる様な、ロックだと思う。

■終電前に帰るとその人の方から言い出した。家で待ってる人から早く帰ってこいと言われたらしい。寝る前に薬を飲むと、本当に何もできなくなるらしい。だから待ってくれている人との間に、布団をかけてもらうシステムを構築したのだという。布団をかけてくれと言うと、その人が布団をかけてくれるのだという。「このシステムは、毎回発動すると思ったら大間違いだぞう」と一言添えて、それでも毎回布団をかけてくれるのだという。

すごく素敵だなと思った。待ってくれるその人がいてくれているから、この人は地獄の様な日々でも、やっていけてるのだと思った。

なぜか、帰りはその人の地元までタクシーで送るはめになった。タクシーを降りる際に病院に見舞いにこいと言言ってきたので、行けたら行きますと答えた。本でも持っていきますというと、そのときは雑誌を持ってきてくれと言われた。小説や文字が多いのは、頭に入っていかない、写真が多い雑誌がいい、とその人が言うので、わかりましたと答えた。じゃあ、そういうことでゴチです、と行ってその人は家に向かって帰っていった。1人、タクシーで池袋に向かう。家に戻ると、待ってくれている人がいる。その人が布団をかけてくれる。それは本当に素敵なことだと改めて思った。