東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『米が美味しいという』

朝、8時半過ぎに布団を引っ張られる感覚で目が覚める。見上げると母がいて、リビングに来て欲しいという。不意にいるとびっくりしてしまう。

兄に電話をしてくれという。昨日、兄も来ようか?と言っていたのを断っていた。それを詫びて、来て欲しいと伝えたいという。まだ9時前だし早過ぎないかと言うが、かけてくれという。それで電話をかけると兄が出て、これから行くと言ってくれる。

結構な早さで兄はやってきて、いろいろと三人で話す。ひとまず、あまりにも痩せてしまっているのでまずは検査とか点滴で良いから病院へ行こう、ということ。そして、これ以上、一人で生活することは困難じゃないか、ということ。母は病院というフレーズをだすと、「私が薬を飲まなかったから仕方がないよ。先生に叱られる」ということばかりを言う。が、病院に行きたくないと拒否はしなかった。その後、ケアマネジャーさんと兄が電話をしてくれた。母に関する助言を聞く。やはりひとまずは食事が食べれないなら、点滴や流動食などひとまず、お医者さんに相談すべきと言う。母は「切ってくれ」とアピールをする。

こういう時、兄もこうと決めたら頑ななところがあり、わりと譲らない。いっそこれから病院へ、と動こうとしたが、日曜であることに気付き、「では、今度の土曜に病院だ。そしてお医者さんの指示に従うが、入院が必要と言われたら入院だからね」と言い切る。僕はわりとふわふわとしてしまう部分もあるので、兄がテキパキと段取りをしてくれるのは有難い。母もそこには口を出さなかった。

朝も食べてなかったし、実家には水以外、ほとんど食べ物は無い。近所のスーパーで昼ごはんに惣菜の弁当を買いに行く。母に「何かいる?」と聞くが要らない、という。だけど、一応、おにぎりなどを買っていく。買い物を終えて家に戻ると、母は誰よりも早く袋の中を確認し、兄の弁当の米を食べたいとアピールをしてきた。「好きなだけ食べたら良い」というと米を食べる。それでしきりに「美味しい」という。他のおかずもいるかというと要らないというが、言ったすぐ後に僕たちがコロッケとかを食べているとそれを少し食べたがる。僕のカレーも少しくれという。とにかく米を食べたいと言う。もちろん、健常者から比べたら、食べる量は大したことないが、ここ最近の母の食べなさを見ていたら、こうやって食べる母を見ることは安心する。

「米が本当に美味しい」

と、痩せた顔をくしゃくしゃにして言う。

結局のところ、誰かと一緒に食べるからなのだろうと思う。兄は、「じゃあ、食事介護してもらうしかないな」という。もちろん、兄も、それが正解だと言ってるわけではないが、では、僕らが毎食、テーブルを囲めるかといえばそれはできない。

何回も確認して、「もうお腹いっぱい」というので、僕らが食べ切ったが、その後も、母は「米が美味しかった」と繰り返す。

昼ごはんを食べてから、兄は要件があるというので先に実家を出た。「2人で一緒には行かないで」というので僕はもう少し残ることに。

「疲れたので横になるね」というので、僕も昼寝をしようと自室へ。布団に入るとあっという間に眠りについたけれど、すぐに布団を引っ張られた。目を開けると母がいて、眠れない、そばにいてくれ、と言う。時計を見ると、15分しか経ってない。

短いスパンで、テレビを着けては、消し、お腹が張るといってはふらふらと立ち上がりリビングから出て行き、横になるね、と言ったかと思えば、寝れないからと起き出す。そして何度も、毎日デイケアさんにお願いしているお弁当の月曜の分を「断って良いか」と聞いてくる。美味しくなくて食べたくないという。明日の判断じゃダメなのか?お腹が空いたらどうするのか、と聞くと、「美味しくない」と繰り返すばかりで、では、母が思うようにすれば良いよと言っても、電話をかけはしない。結局、そのまま、なんやかんやと夕方になり、僕もそろそろ帰ることに。

外に出るとはっきりしない天気。雨がポツポツ降っている。肌寒い。辛うじて傘が無くてもなんとかなる感じだったので早足で駅へ。

もう少しなんとかできるのではないかと思うことばかりだ。こういった母のことも、仕事のことも。休んでいる時間や、自分のことをできる余裕があるなら、ならばこれもできるのでは、と思うこともあるけれど、目先のそれらを全て引き受けるとあらゆることがを消耗してしまう。兄のようにスパッと帰れれば、それも正解だなと思う。

実家の最寄駅付近は、ひとけもまばらな夕方で、ハローウィンで浮かれる様子も無い。電車で東京方面へ。今日は人混みが嫌な気分なので、渋谷などを回避しつつ、帰宅。選挙結果も見る気がせずに、BSの映画や、配信チャンネルの映画を観るが、少しスマホをいじっていると嫌でも選挙結果を目にしてしまう。それでまたどんよりとした気持ちになる。