東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『リアリズムを凌駕する抽象』

ロイ・アンダーソン監督の『愛おしき隣人』DVDがamazonから届く。それでさっそく観る。

特典映像の中に、監督へのインタビューがあり、それを観ると驚くことに撮影はとある1シーン(どこかという説明はない)以外は全てスタジオでセットを組んで行なわれたという。セットの数、55ヶ。半端ない数だ、それ。カメラのアングル、人物の立ち位置、照明、美術、それらのほぼ全てに、監督と製作に関わる人たちの意図がこめられている。その徹底ぶり。

インタビューで、簡潔さを求めるためにはセットでなければならなかったと監督は語る。あらゆるセットは、基本的には部屋や店内を忠実に作り込んでいるけれども、確かにそれぞれのセットは、必要なもの以外のものは排除されているような印象も受ける。

より明確化された抽象はリアリズムを凌駕する


と語るロイ・アンダーソン監督の言葉を聞き、その映像に触れると、ハンマースホイの絵画を思い出す。徹底的に忠実に描かれているハンマースホイの部屋の絵は、あらゆるものが排除されて、空間だけがむき出しで存在する。

ロイ・アンダーソンがセットを組んで、アングルを考え、照明を吊り、作り込もうとするもの。ハンマースホイが徹底的にモノを排除した空間をカンバスに描こうとすることは、どこかでつながっているような気がする。