東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『仙台酒場放浪記』

tokyomoon2018-01-23

月曜。東京に大雪が降る。最初は大したことないかなと思ったらやまない。そういう日に限って車を使わなければならない仕事が入る。幸い、スタッドレスタイヤをはいていたので、スリップなどはしなかったけれど、周りの車でスタッドレスタイヤを履いてない車が多数トラブルに遭っていて、その影響でいろいろな道路が通行止めや渋滞になる。東京は坂道が多い。水分を多く含むシャーベット状の雪でスピンする。雪国であればあらかじめ対策をたてて雪の季節に臨むだろうから大したことはないのだろうが、東京みたいに年に数回しか雪に見舞われないと意識も低下する。結果、大雪の中を深夜まで運転することになり、疲れた。


家に帰ると、娘が作ったかまくらがあり、その中にうさぎと雪だるまが入っていると嬉しそうに教えてくれた。


その前の週末。仙台に出張に行っていた。繰り返しだけど大宮から仙台の間が驚くほど早く、その便利さにやや途方にくれる。山形や新潟が3時間以上かかるのつまり山越えがあるからなのだな。太平洋側の平坦な土地を走るだけならば速度を落とさずに行けるから早いのだろう。


土曜に仙台に降りた時、仙台は雪も降っておらず想像していたよりも寒くなかった。1月なのに雪が降っていないことが意外。ホテルで荷物を降ろしてから夕食を食べに行こうと街を散策。駅前から商店街アーケードをぬけて国分町へ。土曜の夜なので人通りも多い。これから寒さが厳しくなり、雪が積もってもこのくらい通りは賑うのだろうか。国分町三越の近くに狸小路といういかにも繁華街の路地という雰囲気を感じる通りがあり、そこから脇に入ったところにまた雰囲気が異なる面白そうな路地がある。小さい居酒屋やバーが入っていて、その路地を抜けると長屋のような建物が軒を連ねた場所がある。古い家々の中を改装した小さなバーや飲み屋があり、一軒一軒面白そう。そのうちの一軒、焼き鳥屋に入る。一階はカウンターで二階も四つほどしかテーブルがない小さなお店。僕は1人だったので一階のカウンターに座る。閉店に近かったからか、お任せの焼き鳥7品しかないらしく、それを頼む。


この季節は雪が降らないんですかと聞くと、年々雪が降らなくなっていると店長さんが作業しながら話してくれる。手をとめずテキパキと仕事をしている。「温暖化ですかね」と言う。店はその店長さんとアルバイトと思われる若い女性の方が1人。まずはビール。それからお通しででてきた肉豆腐、スティック野菜を食べていると、焼き鳥がでてくる。白石町産の鳥を使ったというレバーの焼き鳥。多少火を通しただけだからなのか、すぐにでてきた。やわらかくて臭みもなくとても美味しかった。


少し町のことも聞く。一番町と呼ばれるその土地は戦後に闇市があった場所らしい。たしかに国分町とは路地を挟んでどこかまた異なる雰囲気がある。三越が横にあり、すぐ隣はそれなりに広い通りなのに、一つ筋に入ると途端に灯りも少ない。仙台で繁華街といえば国分町だったらしいけど、駅前も賑やかになってきているとのこと。アーケード付きの商店街が駅から伸びているから賑やかな場所が広がっているのかもしれないし、何より駅に人がたくさん集まるわけでその周辺が賑わうのは摂理のようにも思う。仙台駅から少し歩いたその土地が一番町という名称であることも何か意味があるのかもしれない。きっと駅前ではなく、かつての中心はこちらだった名残なのか。焼き鳥はその後も順調にでてくる。ダシで煮込んだカブに肉を巻いた串が美味しかった。カブも味がして、甘い。アルバイトの女性は店が閉まる前に荷物を持って「お先に失礼します」と小声で店長さんに伝えて店をでていった。仙台の交通事情はわからないけど、どこからか電車で通っているのだろうか。


店を出て、仕事の知り合いから高校時代の同級生がやってる店がある、と教えてもらった店に、なんとなく行ってみようかとふらふらする。小さなバー。普段ならとても入れないけれど、予備知識があるので思い切って入ってみる。カウンターしかない小さなお店は6名のお客さんでいっぱい。ぎゅうぎゅうな店舗に見知らぬ男が1人入ったわけで、一瞬、店員さんとお客さんにも訝しげな雰囲気がはしる。混雑してるし帰ろうかなと思ったら、「二階なら入れるよ」と行って通してくれた。それで店員さんに、知り合いから教えてもらった旨を伝えると、店長さんが「高校の同級生だよ、懐かしいなぁ」と一階の狭いテーブルをギューとつめて座らせてくれた。


店長さんは僕よりも少し年上で、落ち着いた佇まいで、お客さんとの会話はどんな話にもついていけて、なんというかステキな大人の方。そして常連なのだと思われるお客さんたち。30代で会社の後輩に恋をしている方、なにかと自分の頭髪の薄いことをネタに楽しそうに笑う方、40代くらいのカップル、宮崎から四年前に仕事で仙台に来たという男性、岩手の石巻あたりからきてるという50代の女性。様々な年代の方が店にいて、話が四方から賑やかに飛び交う。こういうお店は、店長さんや集まる人たちの人柄がとてもよく出るのだと思う。店長さんはいろいろな細かいことにま気の利く方で、店を出るお客さんたちにもきちんと声をかけていく。フラッと会いに来て、楽しく呑んで話をする。そういう場所なんだなぁと思う。店内に流れるBGMは店長がランダムに流す80年から90年代の音楽。レベッカ小泉今日子リンドバーグが流れた後に、My Little Loverの『Hello,Again〜昔からある場所〜』が流れる。女性のお客さんたちがなんとなく歌い出す。店長さんは「カラオケじゃないっての」と笑う。常連さんと一見さん。初めて会った人や店で顔を合わせるくらいの人。様々な世代の様々な出自の方々がいる。

お店を出るとき、店長さんが「今日はありがとね」と店の外まででてくれて声をかけてくれた。ほろ酔いで歩く仙台の町。すでに終電も無くなってる時間で、まだ歩いてる人たちはこれから別の店を探して朝まで飲んだり歌ったりするのだろう。さすがに少し寒さがこたえたので、僕はいそいそとホテルに帰った。そんな冬の夜。