東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『雨とフィツカラルド』

朝、起きると天気が悪い。雨が降りそうで降らなそう。と思ったら、降り出して、ついでに風が強くなる。

母は細かいところで、自分が気になったことは何度も繰り返し話す。とある手続きで役所としなければならないものがあるのだけど、母が電話で確認した時は申請者の押印だけでいいと言われたらしい。が、ネットでその手続きのページを確認すると親族の委任状も必要と記載があり、では親族の委任状が必要なのかなと母に聞くと、「それは大丈夫、なんでそんなもの必要なの」と聞く耳を持たない。で、僕が、わかったわかった、と言っても、繰り返しそのことを言葉にする。

こちらは決して押し付けるつもりはないし、口頭で確認していて、それで問題ないならネットの情報と違ってるのだろうと思うし。

ただ、そうやって言葉にしてきているなら、もう、それはそれで受け止めるしかないが、こちらも仕事や諸々の合間に実家に来たり、いろいろやりとりをしている。

『俺の家の話』で、主人公が、父親の介護に向き合い、身勝手にみえる父親の言動にやりきれない感情を吐露する場面、「せめて、お礼とかないのかな」的な言葉を口にした場面は思わず頷いた。一方で介護士の男性が口にする「それが介護です」もまたずしりと重い。

午前中にオンラインで打ち合わせがあったので、実家の自分の部屋で「少し打ち合わせをする」とパソコンを持って作業をしていたら、打ち合わせ中に階下から母の声がする。僕を呼んでるが今は出れない。僕の部屋まで入ってきて声をかけてくるが、無言で制する。

打ち合わせが終わった後、母に用件を聞くと、あんだが今日からしばらく来ないというから、風呂に入ろうと思って、と母は言う。打ち合わせが終わった後に言えばいいんじゃないかと思いはしたが、それを言ったとて意味がないような気がした。

雨が降り始めた中、午後に実家を出て、墨田区近辺のカフェで仕事。と、雨風が猛烈に強くなり、窓に激しく打ち付ける。知人やニュースだと、東京でも場所によっては雷が鳴ったり冠水してるところもあるという。東京の東側はそこまででは無かった。夕方までいろいろ仕事をしてから、北千住へ。

北千住にあるブルースタジオという映画館で、『フィツカラルド』という映画を観る。かつて広いスペースだった場所を映画館に改築したような印象。上映10分前くらいに入ったが、先には女性が1人いるだけ。広い。

「ここははじめてですか?」
と、その女性からたずねられる。
「はい、広いですね」
と、答えると、女性は
「ですよね」と笑う。そのあと、女性は席を立ち、ロビーへ出ると、そのまま戻ってこなかった。

ギリギリになって他に1人、お客さんが来て、貸切ではなくなったが、さっきの女性はなんたったのだろう。

それにしても、フィルムがまわり、映像が始まり、音がプツプツと入る感じ。フィルムが終わり、事切れるように世界が閉じて、灯りがついてじわっと現実に戻る感じ。良い映画空間だった。

『フィツカラルド』は、船で山越えをする、という画的にもとてつもないことを実際にやってみるという試みにただただ唖然とする。そして、船上でのオペラの流れるラストの雄大さ。

外に出ると、雨が止んで、雲ひとつなかった。北千住駅へ向かう路地は、21時を過ぎていたけど、賑わいがあった。