東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

埼京生活『心地いい集団』

■ 8月になった。当然のようにむし暑い日々が続く。


■ 週末、群馬に行っていた。大学の後輩で新婚のO夫婦が伊勢崎におり、東京にいる同期Kからその後輩たちと群馬をドライブでもしようと誘われていた。それは是非是非と参加したのだけど、せっかくみんなが集まるならばと、後輩Oがなにやらいろいろ企てていた。ドライブの間、出来る限りビデオカメラを廻して、旅行の記録を作り、さらにはせっかくだから短編自主映画も作りたいという。Oはそのためにわざわざデジカムを購入していた。さらには精確な予定表が事前に作られており、どこをどのようにまわるかというスケジュールがきっちりと決められて、そのうえ車でまわるそれぞれの場所には撮影用になにやらイベントのようなものが用意されていた。Oはそういうものを企画するために、あらかじめそれらの場所を下見しているという用意周到さを見せており、「下見をして臨むドライブってなんだかどうなんだろう」と驚く私を尻目に、ドライブする前からなにやらただならぬ二日間になりそうな雰囲気を匂わせていた。


■ 金曜の夜に、仕事が終わってからレンタカーを借りて同期のKと後輩のMと伊勢崎へ。外環自動車道から関越自動車道北関東自動車道と高速を乗り継いで移動する。そうすると伊勢崎までは2時間もかからずに到着してしまった。渋滞につかまらないと群馬もかなり行きやすい。


■ とはいっても仕事が終わってからの移動なので伊勢崎のOの家に着いたときにはすでに23時をまわっていた。しかし明日に備えて休むわけではなくそこから土曜日曜の予定の確認。Oが「明日からの撮影は〜」と切り出す。彼の中ではそれはすでにドライブという娯楽ではなく、それは撮影であり、遊びの気分で臨んでいるのではないと思われた。で、予め買っておいた新婚祝いのレミパンを手渡す。これには手放しで喜んでいたので良かった。うまい餃子でも作ってくれたら本望だ。


■ 土曜日曜のことは盛りだくさん過ぎて切りがないからすべてを書けないけど、早朝から夜遅くまでなにかと充実していた。とにかく企画者のOを中心にみんな汗だくになり、日に焼けながら撮影をして、それでも楽しいドライブだった。


■ 群馬は山も多く、風景を見ているだけで楽しい。こういった場所は東京と違って運転するのも楽しいし。国道120号線を奥地へ進むと吹き割れの滝という観光地があり、そこはなんとも迫力のある滝だった。しかし滝もさることながら、それよりも印象に残ったのはその土地のお土産屋だった。吹き割れの滝の近くの国道沿いには専用の駐車場がなく、各お土産屋の店舗の駐車場の車を留めるしかないようになっている。とりあえず適当に一つの店舗の駐車場へ入るが、するといきなりおばさんから変な紙を渡される。そこには「お土産は当店でお求め下さい」と書かれている。つまり駐車料金は取らないけど、その代わりお土産はうちで買っていってくれというわけだ(半ば強制的に)。まぁ観光地っていうのはこうやって観光客からお金を落としてもらわねばならないのだろうけれども。いろいろな手段を考えるものだなと思った。


■ とにかくそういったわけで各店舗は自分の店の駐車場に車を留めてもらおうと必死でアピールする。道路わきで店主であるおじさんおばさんが車で来る観光客にしきりと「駐車場無料」という看板を掲げて手を振っているその姿はなんだか逆ヒッチハイク状態とでもいうような様相を呈する。「こっちへおはいんなさい」というアピールなのだろうけど、申し訳ないがおじさんやおばさんが無言で手招きをしている素振りは揺ぎ無く不気味だった。


■ また、あるお土産屋からは演歌が流れており、有線でもかけているのかと思ったが、よく見るとその店の店主がマイクを持って店先で歌っていた。あまりにも唐突な風景に思わずよくよく観察してみると、店の看板には「群馬の裕ちゃんの店」とかかれてあり、自称なのかなんなのかよくわからないけど、その店の店主は自分を石原裕次郎の名をかりて『群馬の裕ちゃん』と呼び、石原裕次郎の歌をムーディーに歌い観光客に披露して、さらには「石原軍団歓迎」と書かれた立て札まで店先に掲げるといったことをしている。歓迎っていわれてもねぇと思いながらふと見ると、店先の壁に店主と石原裕次郎(本物)の2ショット写真(それもなぜか共にマイクを持ちデュエットをしているような写真)が貼ってあり、「群馬の裕ちゃん」はただの「祐ちゃん」じゃない感じも思わせる。ちなみに店にはおそらく「群馬の裕ちゃん」本人が山から採ってきた木で作ったと思われる杖が売られている。その杖の一本一本には「群馬の祐ちゃん」直筆の一言が添えられているのだが、それが「生涯青春」などといったなんとも香ばしい言葉であり、このへんからもただ者のじゃない感じを思わずにはいられなかった。ちなみに杖はひとつ1000円だった。僕は買わなかった。観光とはまったく関係ないその「群馬の裕ちゃん」の店はしかしまた別の意味で目が離せない存在だった。


■ 土曜の夜は老神温泉のある宿に泊まった。そこはとてもよかった。夕飯にでた魚が本当に美味しくて、みんなで「うめえうめえ」といいながらお腹いっぱい食べた。飲んだり食ったりしながら、みんなとゆっくりといろいろ話せたのもよかった。


■ 思い返せば、去年の7月に同じ面子で一緒に映像を撮っており、一年に一回くらいこうやって集まって何かをやれることは楽しい。Oの企画や脚本ははっきりいって「自分大好き」な人の手によって作られた「自分大好き」な作品だけど、それでも一向に構わないと思うのは、何せそうやって作られたものは外部に出さず自分たちだけで楽しむものだから。それはきっと草野球をするような愉しさなのだろう。徹底的にひとつの「創作」に挑むとしたらこういう集団の在り方がいいとはきっと言えないのだろうけれど、彼らはそれぞれ仕事を抱えており、こうやって一年に一度、言うなれば息抜きをできる空間としてこの場所に集まっているわけで、僕にとってもまた芝居を作るのとは違う息抜きの空間であり、そして「自分がそこにいて心地いい空間」でもある。何事も徹底的にやらねばならないということもあるのかもしれないけれど、まだまだ何かと弱い僕にはこういう空間が本当に重要で、こういう空間を一緒に作れる仲間がいることは本当にありがたいと思う。