東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

埼京生活『日曜の夕方』

■ 夕方になってから近くのスーパーに夕食の買い物に行こうと外に出たら町がなんとなく不思議な静けさに満たされていた。自転車をこいでいる人が坂を下っている。車が目の前を通り過ぎて行く。近所の家の庭先では子供がバスケットボールで遊んでいる。だからまったく無音ってわけではない。だけど平日とは違う静けさがある。かといって土曜日とも違うような気がする。なんというかそれは日曜の夕方の静けさとでも言うものかもしれない。なんかそういうのがある気がする。日曜日は夕方になって日が暮れていくと何かが終わっていくような気がする。子供の頃は「ああ、明日からまた学校か」と思いながらサザエさんを見たりしてそういう終わり感じていた。あの時感じた寂しさ。それが今も日曜の夕方にはある。買い物を終えて帰る途中に通りかかったお寺の周りを老夫婦が散歩していた。2人はそれぞれカメラを抱えていた。やがてはおばあちゃんが何かを指差して老夫婦は境内のほうに歩いていった。ゆっくりと日曜日が終わっていく。


NHK教育テレビの『芸術劇場』で鈴木忠志演出の『酒の神ディオニュソス』が放送していた。今月の12日(水)に埼玉県富士見市のキラリ☆ふじみという劇場でこの演目が上演されることをちょっと前から知っていてこれは行きてぇなぁと思っていたのだけど、仕事の都合でいけそうもなくいやはや残念と思っていた矢先に今日のテレビ欄にこの演目を見つけまして。「え?このタイミングで放送するんだ?」と思いつつもこれは有難いと思いテレビを観ました。


■ 直接受けたことはないのでなんともいえないものの所謂鈴木メソッドと呼ばれている身体訓練を積み重ねてきた役者の方々の立ち方はやはり魅力的でした。重心がすごく低いところで安定しているからなのか、一つ一つの所作がきれい。歩き方一つにも美しさがあります。演目の放送の前に鈴木忠志さんのインタビューがあり、その中で日本の近代演劇は西欧演劇の影響を受け過ぎてしまったと語り、西欧演劇の影響を受ける以前の日本独自の演劇、それは能や歌舞伎といったものにあたるのでしょうか、そういうものの中に日本独自の身体を見出せるのではないかと考えてそういうものを芝居に取り込んでいるといったことをおっしゃっていた。


■ 確かにそういう突き詰めた身体表現の一つの完成型としてはすごい芝居だったとは思いましたが、じゃあこれが「純粋な日本の演劇ひいては日本人の身体なのだ」と今、この時代に断言できるのかというと少し疑問も感じました。かつての日本人なら持っていたかもしれない身体の特徴というものを今の僕はきちんと持っているのか。僕自身は足腰よりも上半身に重心があるように思える。そういうことだけでなく洋服を着て、ハンバーガーを食べてコーラを飲む。言葉にだって当然のように英語が入ってくる。良し悪しはともかく生まれた時から西洋の文化はすぐ隣にあった。日本の独自の風習、そこに東洋の文化、西洋の文化といろいろなものが混濁して今の日本があって、そこから日本独自のものだけを切り取って「はい日本はこれです」というのは少し無理があるのではないか。ゆっくりとした動きだけで一括りにするのは軽率だけど、むしろ不安定に揺れ続けるチェルフィッチュの役者の抱える身体の方が「今の日本の身体」を表現しているように感じる。当然、鈴木忠志さんがやっている身体論を軽視するってわけではなくて。あの身体はすごく魅力的。


■観たDVD

 宇田川フリーコースターズ 『epoch conte square』

 バナナマンおぎやはぎによるコントライブ。一つ一つの話は作りこまれているというよりもそれぞれの特徴をきちんと活かそうとしている印象を受ける。話の流れよりも掛け合いなど遊びの部分を重視しているとでもいうか。そこにラーメンズの作品が小林賢太郎一人の名前で作・演出が明記されているのと、作・演出に全員の名前が連なっている本作との違いがあるように思える。『話≧キャラ』ではなくて『話≦キャラ』という印象。だけどそれでこそコンビの枠を超えたセッションの魅力があるようにも思う。


■ ところでこうやってDVDなどでコントライブを出すときってなんで実際に上演した演目順とは異なる順番で収録されるケースが多いんだろう。まぁその構成順が映像として観る時に面白いと判断しているからっていうのはあるんだろうけど。でも舞台作品を映像で観ることがそもそも無理があるってことはこちらとしても当然理解してはいるわけで、それでも僕はやはり極力舞台で上演したものに近い形で見たいと思うほうなので出来れば順番通りに並べて欲しいと思います。暗転中の間や幕間の映像とか(そういった『待つ』時間にこそ映像ではなく舞台を生で観る醍醐味があると僕は思うので)までそのまま収録する必要はないにしても、舞台ではベストと思って作られた構成を出来る限りそのまま観たいと思うわけです。まぁ映像として後で観られるだけでも十分有難いわけではありますが。