東京から月まで

東京在住。猫と日常。日々のことなど。

『台風がやってきた』

12日(土)。東京に台風が直撃するということで、前日からやけに報道が騒がしかった。当然、仕事にも影響があり、いろいろなことが中止になったり。仕事も休みになった。それで、土曜は家でじっとすることに。朝ごはんを食べてから娘となんとなく映画を観る。

プーと大人になった僕

僕自身があまり『クマのプーさん』について詳しくなく、その原作がどのようなものかわからないのだけど。大人になったクリストファー・ロビンが、仕事で忙殺される中で、家族や友達など大切なことを忘れてしまったことを、プーさんと再会することで気づき、取り戻すという物語。とても分かりやすいエンターテイメントな話だし、物語自体も極めてオーソドックスな展開を見せる、けど、それがすっと入って良かった。プーさんや登場人物たちの言動にハッとするユアンマクレガーは、エンターテイメントな作品の主人公をきちんと演じきる。そんなはずはないだろうと思うが、死ぬほど大切な会社の会議資料を鞄に入ってることを一度も確認せぬまま、会議に臨むような役を、さらりと演じ切るのは見事だなぁと思う。ストーリーは、特に後半の物語が展開して以降は、ご都合主義といえば、ご都合主義だと思う。プーさんたちの言葉がハッとするようなものであったとしても、実際問題、ままならないことは、ままならない現実がある。とはいえ、せめて映画の中は、幸福な結末を迎えるシナリオをまったく否定するつもりもないし、ユアンマクレガーが物語の終盤、大切な書類をお約束のような滑り方で風に飛ばして消し去った娘に向かって「大切なのはおまえだよ」と力説する姿には、やっぱりグッとさせられた。

行動の主体が娘に切り替わる映画の後半は、典型的なドタバタで、そちらよりも、ユアンマクレガーとプーさんがロンドンから100エーカーの森を歩く前半が面白く、そういえば、このマークフォスター監督の「ワールド・ウォー・Z」もまた、前半ですべての面白さを出し切っていたなぁと思ったりもする。

個人的に一番良かったのは、ユアンマクレガー演じるクリストファー・ロビンが自作自演で架空の化け物をやっつけて、森の仲間たちを安心させる場面で、そういえば、子供の頃というのはそういう物語の起承転結をすべて自分の中で行うことがあり、それが子供にとって世界のすべてだった時があったなぁと思いだした。

名言ちっくな言葉にもハッとさせられるけれど、なによりも、あのシーンで子供の世界のことを思い出させてもらえたことが、この映画を観た収穫だったと思う。

というわけで、映画を観た後、御飯を食べて、さらにぼんやりまどろむ。その後、さらに『ハリーポッターと賢者の石』をDVDで観る。娘はじーっと見ていたが、僕は途中で少しうつらうつらしていた。

夜、久しぶりに家族で御飯。夜になるにつれ、徐々に風が強くなる。娘は21時過ぎに寝かせた。23時ごろ、強い風のピークが去り、おそらく住んでる地域は大丈夫だろう、ということで、嫁も寝室にあがり、僕はもう一本、映画を観ることに。

『ほとりの朔子』

とある長閑な海沿いの町を訪れた浪人生の少女の七日間くらいの話。特定の日付、曜日がクレジットされ、3.11後の、おそらく1年後の夏の話として描かれている。福島の原発事故のことを扱ってはいるけれど、なんとなく、それだけではなく、強く「いま、ここ」という時代設定への拘りを感じる。あらゆる登場人物は表面とは別にそれぞれが抱える欲望があり、それがむき出しに現れたり、隠しながらもこぼれるように見えたりする。浪人生の少女と、不登校の高校生の少年。敢えて、少女と少年と呼ぶのは、彼らが大人とも子供ともとれる微妙な年代ながらも、セレクトされる衣装はやけに子供っぽく、登場する大人たちの姿を見る立場として、映画の中で役割を背負っているように思うから。

ただ、子供の立場である主人公の朔子と、高校生の亀田も、子供側ではありながら、明らかに子供として大人の行動に踏み込めない亀田に対し、朔子は大人のような振る舞い(喫茶店で亀田のデートを優先させる。家出の終わり際、亀田の頬にキスをする)を行う。が、いずれにしても、二人は様々な大人たちの振る舞いに触れ、家出を決意するが、結局のところ、あっさりとそれぞれの戻るべき場所に戻る。波打ち際、ギリギリで、彼らはまだ大人になり切れずにその場に留まる。が、もちろん、この7日間の出来事は、彼女、彼の大人へ向かう不可逆的な進行に、決定的でないにしても大きな何かを与えている。

音楽は、ピアノやCDから流れる曲、彼らが口ずさむ歌として流れる以外で、唯一、家出をする二人が入った喫茶店で披露されるパフォーマーのダンスの場面で、ダンスの音楽から乗り替わりで流れる音楽が出現する。その時、それを観る一人の大人の、黙したまま流れる涙は、この作品の淡々と進む嫌気がさすような大人たちの行動の中で、唯一、美しい涙としてあるように思えて、どこからともなく流れる音楽が、その美しさを際立たせてくれるように思う。

観終わって、良い具合の疲れ。窓の外からは、風の音も止んだ。それで深夜1時過ぎ、少し外に出てみる。あたりはだいぶ静かだった。びっくりしたのはもうアスファルトも乾いている場所があったこと。空を見上げると月がでている。とてもきれい。少し町の中を歩く。人はほとんどいないが、工事現場の交通警備の人はいつもと変わらず立っている。ずっと台風の中もいたのだろうか。コンビニは空いてる店と閉まっている店がある。数匹、地域猫を見つけた。台風の中、無事でよかった。晴れて安心しているのか、うろうろしていた。JRが早々に運休を発表したり、いろいろと予防線が張られることで、仕事も休みになったり、と、それはそれで悪い傾向ではないと思うけれど、この国は、なんだか、物事が熱に浮かされたような感じで進行していくなぁと思う。外の空気は台風直後で、良い具合にぬるく半袖でも十分だった。

家に戻り、少しニュース。川が決壊しているという場所もあり、心配にもなるけれど、幸いにも自分の住んでる地域は大丈夫。運が良かったとしか言いようがない。

なんとなく、まどろんでから、布団に入り、いつの間にか眠りにつく。